【NHKプロフェッショナル】夜間中学教師入江陽子さんに学ぶ、教師のあるべき姿勢

NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で夜間中学教師の入江陽子さんが特集されました。

入江さんの姿勢に学ぶことがありましたので、以下に記します。

心よ、壁を越えてゆけ~夜間中学教師・入江陽子~

2021年5月25日のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で入江陽子さんが紹介されました。

題名は「心よ、壁を越えてゆけ~夜間中学教師・入江陽子~」でした。

入江陽子さん

入江陽子さんは、全国に36校ある夜間中学の内の一校に勤める教師です。

現在53歳で、27年間夜間中学の教師をしています。

夜間中学とは

夜間中学は、戦後に教育の機会を失った人たちのために作られました。
現在は外国からの働き手が増え、8割が外国籍の生徒となっています。

教師の出勤は毎日昼過ぎで、夜9時半までが勤務時間です。
生徒たちは夕方に登校します。

現在入江さんが担当している生徒は40人おり、そのうち8割が外国人です。

外国人生徒は一年目は日本語を学ぶことになりますが、入江さんはこの日本語の授業を担当しています。

入江さんの姿勢

入江さんは日本語がわからない生徒たちに日本語を教えています。

「言葉も国籍も文化も違う環境をどう乗り越えるのか」という問いに対し、入江さんはこう語りました。

一人の人間として、自分を見せるしかない。
変にかっこつけるとか先生ぶるとか、その前に自分はこういう人間なんだ。というところを見せるしかない。

生徒の意欲

生徒たちは生きていくために言葉を学びたいと切実に考えていました。
バイトを掛け持ちし、週に一日の休暇もなく働いている生徒もいます。職場で日本語がわからないと言うと、怒られるのだそうです。

しかし学ぶ意思を持って夜間中学に通っても、様々な事情で挫折していく人が少なくありません。
疲れて休む生徒もいます。

生徒のやる気をどう支え続けるのかが課題でした。

教師がどうやって生徒を導くか

ゆっくり、粘り強く支えるのが入江さんのやり方です。

学ぶことにすごく時間がかかる生徒がいるのだけど、ある時ふと少しずつできるようになる場合があるため、粘り強くやるしかないと言います。

生徒の中には過酷な経験をしている人もいます。
祖国の民族間の対立で多くの人々が犠牲になる中、本人も銃で脅されて夫と共に日本に逃げてきた生徒がいました。

入江さんはこう語ります。

ここに辿り着くまでに、いろんな経験されて生きてきている(生徒がいる)。
経験としてはいち教員よりもすごくいろんな豊富なことを経験されてるので、先生生徒という上下関係じゃできない面がすごくある。
若い、年取ってる、いろいろあると思うんですけど、基本は水平だと思う。

生徒を知るために

入江さんの水平の姿勢は、授業以外でも現れていました。

生徒のことを深く知るために、生徒の郷土料理を作ってもらい、食べます。

交流を図る中で、心が通じ合う瞬間を感じることがあると言います。
言葉が通じない分、心が通じ合ったことがわかる時があり、それが面白くて教師をやめられないのだそうです。

夜間中学の広報活動

日本で暮らす外国人は30年前のおよそ三倍、288万人にのぼります。
しかし無償で学べる夜間中学に通う人は、認知度が低いこともあり、2000人を下回ります。

入江さんは休日を返上し、駅前でビラを配り広報活動をしています。
卒業生のつてをたより、外国人がいるところを訪ね歩きます。

夜間中学が必要な人に届いていない。
どんな人でも勉強できる場所があった方がいいと感じるのだそうです。

27年前の生徒たち

入江さんが夜間中学の教師になったのは偶然でした。
大学で油絵を学んでいましたが、周囲の勧めで教師になりました。たまたま配属されたのが夜間中学だったのです。

当時の生徒の多くは在日コリアンや残留邦人などのお年寄りでした。

入江さんは当初、子どもたちを教える通常の中学とは違う環境に面食らいました。
文字が読めない、書けないというのがどういうことかわかないまま教材を作って渡すと、悲しそうな目で「わからない」と言われます。
それでも懸命に学ぼうとする生徒の姿が、胸に刺さりました。

文字の読み書きができないと、電車に乗れず、自分の名前や住所が書けません。生徒たちは学校に行っていないという引け目を持っていました。

学びたかったはずなのに、(学校に通えず)苦労をしてきた生徒たちは、人生でやり残したことを取り戻す気持ちで学校に来ていたはずだと入江さんは語ります。

夜間中学の教師の難しさ

人事異動の度に、夜間中学を希望して教壇に立ち続けました。

入江さんが40歳を迎えるころ、状況が変わります。
外国人労働者が増えるにつれ、これまで以上に複雑な事情を抱えた若者たちの入学が相次ぎました。

生徒たちは授業中に騒ぎました。
入江さんは舐められたら終わりだと思い、怖い顔で注意を重ねました。

ある10代後半の外国人生徒が授業中に何度も悪ふざけをするため、厳しく叱ることが続きました。
生徒は入江さんを逆恨みし、言動をエスカレートさせていきます。

学校の中だけでなく外で待ち伏せをされ、入江さんは身の危険を感じるようになりました。
関係の修復ができないまま、生徒が学校を去ることになりました。

夜間生徒が教師に求めるもの

生徒は退学直前に生い立ちを語りました。

長く母親と暮らせず、捨てられたと感じてきたこと。
家に居場所がない自分のことを、もっと気にかけて欲しかったと言いました。

一方的に勉強を教えるだけでは不十分だと、入江さんは悟ります。

一人の人間として、自分を見せるしかない。
その反応によって、対話を深めていく。
等身大の対話生徒が何を考えているかとか、どんなことを感じているかを知りたい。

教師と生徒の交流方法

入江さんは生徒とギターを弾き、音楽を通してコミュニケーションを図っています。
卒業したあとも連絡を取り続け、現在は友達として付き合いが続いている元生徒もいます。

元生徒は、在学中に入江さんがギターを弾いたことで故郷を思い出し、感動したことがあると話しました。

学校に楽しみを作る

入江さんには現在、気にかかっている男子生徒がいました。
テストでミスが目立つ生徒でした。

彼は出稼ぎで日本にきていた母親に呼ばれ、一年前に日本に来ました。しかし日本に来てから半年ほど、家に引きこもっていたといいます。

授業中の集中力が途切れがちで、生徒たちの輪にも溶け込めずにいました。

入江先生は母親を呼びだし、三者面談をしました。
母親は夜間中学を卒業したら、高校に行ってほしいと願っていましたが、入江先生は生徒の胸の内を掴み切れません。表情や行動、顔色で気持ちを想像することしかできないのが気がかりでした。

ある日、その生徒が体調不良を訴えて帰宅しました。
学校に通い続けられないのではないかと不安が過ります。日本に来たばかりで友達が居らず、引きこもり後に学校に通い出して、ストレスや緊張があっただろうと心配でした。

通学を再開したその生徒を呼び出し、音楽室で二人でセッションをしようと持ち掛けました。
音楽が好きな生徒だったからです。

楽しいことがあるから、毎日学校に行こうという気持ちになれる。辛いだけであれば行く気にならないだろう。

そう入江さんは考えました。

彼は自らのスマートフォンの画面を入江さんに見せ、故郷ではマーチングバンドに属し、セクションリーダーだったことを話しました。
こんなことをやっていたのだと、しゃべりたかったのだろうと入江さんは思います。

それまでどういう生活してきたのかなど、心開いて話してもらわないと、分からない部分がたくさんあるのだと言います。

彼は音楽での交流をきっかけに、授業に懸命に食らいつくようになりました。

学ぶために心を繋げる

ここで足場を作る。学校になじんでくれれば、そのあと進んで行ける。
主体的に自分でやろうと思って頑張っていく力になる。
新しい生活を始めるうえでのやる気、希望を見つけてほしい。

と入江さんは語ります。

入江さんと生徒のセッションを、卒業生を送る会で発表することにしました。

その前に行われた小テストでは、彼はそれまで書けなかったひらがなを正しく書けるようになっていました。

彼は入江さんが学校で元気が出せるよう励ましてくれていたことに、気が付いていました。
先生に感謝していると話します。

卒業生を送る会で、彼が叩く木琴の音色が力強く響きました。

夜間中学教師のプロフェッショナルとは

入江陽子さんが考えるプロフェッショナルとは「生徒と向き合って、生徒のことを考えて、最善を尽くせる人。とことん考え抜いていられる人」でした。

夜間学校の教師の試行錯誤

私はプロフェッショナルが好きで、毎週録画して観ています。

ちょうど夜間学校が舞台のドラマを観ていたこともあり、いつにも増して興味を持って見ました。

そのドラマは地域限定で放送され、先日最終回を迎えた「ワンモア」です。
現在全7話をAmazon videoで観ることができます。(2021年5月25日現在)

ワンモアはアイドルグループのA.B.C-Zが主演しているドラマですが、侮ってはいけません。
非常にいいテーマ、いい芝居で作られた完成度の高いドラマとなっています。

アイドルドラマが苦手だった私が、見方を変えるきっかけとなったドラマですので、興味のある方は是非ご視聴ください。

そのドラマでも「生徒たちは自分より人生経験が豊富で、クラスの中で僕だけが何者でもない存在だった」と教師が語るシーンがあります。(ワンモア5話より

ドラマのレビュー記事にも書いたのですが、私の長女は小学校一年生の時の担任教師と合わず、体調を崩したことがあります。二年生になり担任が変わって、見違えるほど明るくなりました。
その後、毎年変わる担任を娘なりに評価するポイントとして、こんなこと☟を言っていました。

今の先生はね、怒る時は厳しいけど、優しいときは優しいんだよ。
先生が間違ったことを言っちゃったときはね、「先生が間違えた。ごめんね」ってちゃんと謝るんだよ。だからすごく好きなの!

間違えた時は認め、必要があれば謝る。人として向き合い、虚勢を張らない。
そんな姿勢が尊敬や信用を得るのだと感じました。

入江先生は「一人の人間として、自分を見せるしかない。変にかっこつけるとか先生ぶるとか、その前に自分はこういう人間なんだというところを見せるしかない」「先生生徒という上下関係じゃできない面がすごくある。基本は水平だと思う」と話しています。

娘の話とリンクしました。

夜間学校は定型の生徒ではないから、より試行錯誤する背景があるのでしょう。
しかし実は、全日制の学校教師にも必要な姿勢だと感じました。

全日制は生徒数が多いですし、思春期だと集団の心理もあって大人の本音をバカにしやすい、残念な習性が出てしまうこともありますが、それでも人としての対話が心を動かすものだと思うんですよね。
親と子、夫と妻、教師と生徒、上司と部下、友人関係などどんな関係であっても、上辺の言葉を言う人を信用できるわけがないのですから。

入江さんが言っていた、「楽しいことがあるから、毎日学校に行こうという気持ちになれる」というのは、勉強を好きになるきっかけとしてとても重要です。

学校が楽しい、授業が楽しいと思えることは、勉学に向き合う姿勢に直結します。

かつてやんちゃだった私の中学校時代の同級生は、中卒で働きに出ました。
正社員なのにアルバイト並みの安い賃金で、一人で暮らすのは難しい額でした。

彼は勉強も学校も嫌いだと話していましたが、楽しい授業をする先生が教えたことだけは非常に色濃く記憶し、理解していました。
心の壁が勉学の吸収に影響を持つことは決して珍しいことではないのです。

前述した長女が担任教師と合わなかった時、担任は教材に工夫を凝らす人でしたが、長女は全く頭に入っていませんでした。
全国規模で行われる学力テストでは算数の理解度が0の結果という散々なものでした。

しかし担任の問題が落ち着くと、みるみる吸収してあっという間に平均以上のレベルになりました。

楽しめる環境は、「受け入れられている」という安心感と余裕を生みます。
緊張が和らぐと思考に柔軟性を生み、知識を吸収しやすくなります。

「わかる」ことが面白みに変わります。
この繰り返しで勉強が楽しくなるのだと思います。

現に長女は担任との関係が悪かった時、算数を嫌いだと言っていました。
しかしその後わかるようになると途端に「楽しい」と言うようになり、今では得意教科になりました。

入江先生は長年夜間中学の生徒と向き合い、学んだ結果、これを知り実践されているのでしょう。

生徒を楽しませるには決められたレクリエーションをするのではなく、人となりが見える交流が必要なのですよね。
教師は大変な仕事ですが、必要な存在です。
入江先生に学んだ「プロフェッショナル」でした。

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