【ひばりの朝・ヤマシタトモコ】実父からの性的虐待・作者の怒りが込められた漫画

作者ヤマシタトモコがあとがきに「怒りを込めた」と書いている、「ひばりの朝」

「ひばりの朝」には性的虐待が見逃され続ける姿が描かれています。

表面化しないだけで決して珍しくない性的虐待。考えさせられる作品を紹介します。

ひばりの朝 ヤマシタトモコ

2012年祥伝社から一巻が発行されました。
2013年に二巻が発行。全二巻の漫画です。

作者はヤマシタトモコさんです。

ヤマシタトモコさんはボーイズラブ漫画を多く描いていましたが、近年は一般雑誌で連載をしています。

代表作は「ドント、クライガール」、「HER」など多数。

ひばりの朝 一巻あらすじ

14歳の「ひばり」は幼い頃から肉付きがよく、周囲から下品な目で見られて、“誘っている”と誤解されやすいタイプ。

母親の愛美は女を武器にする、放漫なタイプ。
娘のひばりも自分と同じように、いやらしいタイプだと決めつけている。

父親は職人気質の無口な男。

ひばりは家に帰りたくなくて、愛美の従弟である完(20代中盤男性)の家に遊びに行っていた。
完はひばりに惚れられていると思い込み、ひばりを性的な目で見ていたが、手は出さない。

完には7年付き合っている彼女の富子がいる。

富子は高身長でやせ型、可愛いより格好いいと褒められるタイプで、女性らしさがないことにコンプレックスを感じていた。
富子は完と共通の友人である憲人から、「完がエロい体の女と浮気している」と、完とひばりが一緒にいる写真を送られる。

富子は自分と対照的なひばりの写真を見て、心が毛羽立つ。
すぐに誤解は解けるが、完の軽口によって富子との関係が拗れる。

ある日富子が電車に乗ると、ひばりと同じ学校の制服を着た女子たちが、ひばりの噂をしているのを聞く。

ひばりが父親から性的虐待を受けている。

というものだった。

憲人は富子に片思いしていた。
富子との関係が上手くいかず心が荒んでいた時に、偶然ひばりと会い、話す。

そして憲人は、ひばりが虐待に遭っていることに気が付いた。

ひばりの同級生の勇は、ひばりが好き。
しかし周囲に体目当てだと思われたくなくてひた隠しにしている。

思い通りにならないひばりに、勇は苛立ちを感じていた。

同じく同級生の美知花は、“周囲から浮いているひばりを気にかける自分”の悦に浸っている。
美知花はひばりが打ち明けた父親の話しを、面白がって喜び、噂を流してしまう。

ひばりは噂の元が美知花だと気づいていた。
美知花が痴漢に遭い、ひばりに助けを求めるがひばりは傍観する。それは性的虐待を面白がる美知花と同じだった。

噂は学校中に知れ渡り、勇や、安定を求めて教師になった担任教諭の辻の耳にも入る。

辻はひばりの母、愛美と話をするが、ひばりを誤解している母親に気付き、純粋なひばりの本当の姿にも気づいていた。

ひばりの朝 二巻あらすじ

憲人は悩み、富子を呼び出す。

虐待から救わなければならないと言う憲人と、ひばりへの性的なコンプレックスから、見て見ぬフリをする富子は食い違う。「同じ女だろ!」と焚きつける憲人。

根強いコンプレックスと戦いながら、ひばりの反応で確かめようとする富子。
そして虐待を確信する。

富子はひばりの親戚である完に、ひばりが虐待に遭っていることを告げるが、楽観的な完は実の父親が性的虐待をするわけがないと言い切る。

虐待は嘘であり、中学生の過剰な意識がそうさせるのだと言って、取り合おうとしない。

富子は楽観的な完に嫌気がさしていたので、別れを決める決定打となった。
富子はこれ以上自分にできることはないと宣言し、完も共犯だと言って去る。

美知花はクラスメイトにひばりを貶める発言をし、精神的バランスを失って母親にぶつかる。
クラスで美知花の腹黒さに気付いたのは勇だけだった。勇は浮いているひばりに声をかけ守ろうとする。

勇がひばりを家まで送ると、完がひばりの父親と話しをしていた。
完は性的虐待がひばりの軽口だったと決めつけ、父親に謝るようにひばりに言う。

謝っちゃえって!

と言う完の言葉にたまらず、

あたしがわるいんじゃない!

と叫んで逃げ出すひばり。

しかし中学生が逃げ出せる場所はなく、家に帰るしかなかった。

勇は働いて稼ぎ、ひばりを助けると言うが、現実的ではなかった。
どうなったら助かることになるのか、とひばりは自問自答する。

ひばりは中学を卒業し、高校に通い出す。
富子は憲人と付き合い、時は流れている。

ひばりは息を止め、ただやり過ごすしかない日々を過ごし、高校の卒業式を迎える。

完は愛美とひばりの卒業を祝おうと話すが、ひばりは帰らない。

終わり

ひばりの朝 感想

非常に胸に詰まる作品でした。

ひばりは二度と帰らない。それでいい。帰って手を出されたら、被害者である娘が「同意していた」と捉えるのが日本の司法です。

実の父親から性的虐待を受けた友人がいます。
打ち明けられたとき、彼女の父親は消えるべきだと思いました。

友人は結婚してなお、実家と付き合わざるを得ず、それがトリガーとなって苦しみ続けています。

両親と関係を切りたくても結婚相手との親戚付きあいに影響し、本当のことを言えば偏見を持たれかねず、非常に難しいのです。
警察に行っても、裁判まで持ち込めたとしても、殆どが罪だと認められない国ですから。

子どもが何歳でも、親が子どもを性的対象に見たら罪です。

あとがきに、いろいろな怒りを詰め込んだ話になりました。と作者のコメントがあります。

とてもいい作品です。

お勧めします。

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