貧困と教育と子どもの非行
現在、40代に足を突っ込んだ主婦です。
私が小学校高学年になるころ移り住んだのは、県営団地や市営団地が集まっており、いわゆる低所得家庭とそうでない家庭の差が激しい地域でした。
一言に低所得と言っても、その理由は様々です。病気で働けずに止む無く公的な支援を受けている家庭もあれば、そうでない家庭もありました。
・片親の貧困家庭。
・両親が働かず、生活保護に頼りながら酒とタバコとギャンブルで浪費し、貧困生活を送る家庭。
・血のつながらない父親に日々殴られ、食事を与えられない家庭。
・足の踏み場のない荒れた家で、ボロボロの服を着て、貧困から学校に通えない妹を気遣う兄弟がいる家庭。
私が通うことになった中学校は、時代が20~30年ほど遅れているのでは、と噂されるほど酷く荒れていました。
・深夜に頻繁に学校の窓が割られ、侵入される。修理費がまかなえず段ボールが貼られる。校内で使用するプリント類も、節約のために配布ではなく回収される。
・校舎の外壁、校内の壁に卑猥な落書き。
・早朝、放課後に校内でシンナーを吸う生徒が居り、使用済みの茶色がかった袋が至る所に転がっている。
・校舎の2階と3階の廊下を、自転車と原付バイクが走る。
・授業中もテスト期間中も構わず暴れる生徒が複数居るが、先生は体罰と責められるのを恐れて手が出せない。授業中も教師たちがチームを組んで見回りをするので、授業は自習が大半を占める。教師が腹を酷く蹴られるなどして登校拒否となり、教師不在の授業が続く。
・生徒間で金銭を巻き上げるトラブル。
学校は非行傾向のある生徒が手に負えず、問題が起こるとすぐに警察を呼びました。
毎日と言っても過言ではないくらい、校内でパトカーや警官を見て生活を送ることになります。
警察が生徒を直接パトカーに乗せて連行していく様子は見たことがありません。しかし「〇〇が鑑別に入ったらしい」などの噂は度々聞かれました。
「あの中学校(私が通う学校)に近づいてはいけない」
別の中学校の生徒から、そう聞いたことがあります。
飛びぬけて非行傾向の生徒が多かったので、周辺の学校の生徒から避けられていました。
これは25年程度前に、一都三県であった本当の話です。
中学生の非行のリアル
荒れている子達の中でたまに“リンチ”が起こっていましたが、一般の生徒を対象にした「いじめ」はありませんでした。(好きな男子とデートさせてあげるから金をくれという、斡旋の対価を名目にした金の巻き上げはありました)
私はいたって真面目な生徒でしたが、荒れている子達の中に仲が良い子が複数人いました。
彼らは対教師には激しい言動をしますが、友人間で1対1となると至って普通でした。圧倒的に大人に不信感を抱いているのです。彼らに合わせて寄り添える特定の大人には懐くこともあるのですが、その他の大抵の大人を敵視していました。
彼らは正体不明の不安、不満をどうやって発散したらよいかわからないように見えました。
私は中学を卒業するのを機に、荒れていた内の一人の男子と付き合うことになりました。
貧困と孤独感と学力
彼は高校に進学しませんでした。
できなかった、という方が正しいです。
彼は貧困家庭で育ちました。
継父と合わず、家で顔を合わせると殴られます。
家で食事を摂ることができず、居場所がありませんでした。
中学校に通っていた時は文房具もろくに揃わず、上履きは壊れたものを履き、体育着や学校の指定鞄などは、親が関与しないところで同じく荒れていた先輩のお下がりをもらいました。自転車も壊れかけのものをお下がりでもらったり、放置されていた自転車を盗むなどして使いました。
同級生の筆箱から鉛筆や消しゴムを“借りる”という名目で取ることがありました。教師が注意すると返すのですが、怒って机などを蹴って教室を出て行きました。親に買ってもらえない、或いは「買って」と言えない環境がそうさせていました。「俺は鉛筆と消しゴムを買ってもらえないんだ」と周囲に言えないのです。彼らの環境の悪さは、授業を受ける以前の問題でした。
支援が必要だったにも関わらず、同様の状態の生徒が少なくなかったこともあり、彼の貧困問題は黙殺されました。
私が中学生だった時は、彼の状況を知りませんでした。彼自身が気にしていないのだと思い、小さくなって壊れた上履きを履いていることに疑問を感じなかったのです。日本人が陥る貧困がどういうものか、まるでわかっていませんでした。
彼の英語力は教科書の一番最初に書いてあった「I have a pen」で止まり、算数の掛け算もほぼ言えませんでした。漢字は「夜露死苦」が書けても、常用漢字があまりわかりません。学校でまともに授業を受けられていない影響でした。
学力が圧倒的に足りないことに加えて、彼の両親が「高校の学費は出さない」と断言したことで、彼の高校進学の希望は絶たれました。「俺、学校も勉強も嫌いだし」と開き直ったようによく言っていましたが、「なんでみんな高校に行ってるのに、俺は通えないんだ」とも、よく漏らしました。
彼に定時制高校に通うことを勧めたこともありましたが、定時制高校の卒業率が全日制に比べてかなり低いことに現れているように、4年もの間、昼間働きながら夜の学校に通い続けるのは簡単ではありません。中卒が得られる給料ではとても一人暮らしはできず、実家を出ることができません。実家には高校進学を反対して、彼に日常的に手をあげる親がいます。
「環境が悪くても周囲のせいにせず、努力して上を目指せ」と簡単に言う人がいますが、綺麗ごとです。
頑張れるのは、親や周囲の大人の中に“応援してくれる人がいる場合”に限られます。それほど子どもにとって信用できる大人がいるかどうかは大きいですし、支援が必ず必要なのです。
どれだけ理想を語ったところで、実際に定時制高校に通い、卒業するのはかなり難しいと思われました。それを彼も分かっているので、「(高校進学は)無理」と一刀両断し、楽しそうに高校に通っている同級生たちに悪態をつきました。当然、同級生たちとは疎遠になって行きます。
彼は私に依存するようになりました。私は総合高校の美術科に進学しました。放課後に原則全員参加が求められているデッサンの補講があったのですが、彼はしつこくサボるように求めました。仕事が終わると私に何度も電話をかけてきたり、深夜に家に来るなどして「学校なんて行く必要ない」と言いました。
私は次第に彼を負担に感じるようになり、ほどなくして別れを切り出しました。その際彼は少々問題行動を起こしましたが、一夜限りのもので大きな被害はありませんでした。(後に謝罪も受けています)
その後彼は塗装業に就く実の父親を頼って、関東から東北に移り住んだと聞きました。
子どもの非行は子どもの責任なのか
漫画やドラマでは、過酷な環境を跳ね除けて勉学に励む子どもが美談として描かれるのでしょう。
しかし実際は、「なんで俺はこんなところに居なければならないんだ」と不満と寂しさを溜め込み、食事を摂れる場所や眠れる場所を探して深夜徘徊などを繰り返します。そして同じ環境にいる先輩の伝から“悪い人たち”に繋がって行くケースが珍しくありません。
産まれた時から辛い環境に置かれ、十何年もの間「なんで俺には温かい食事と安心して眠れる場所が与えられないんだ」と周囲と比較し続けます。経験せず身近な実例も知らずに、この孤独感を想像できる方はどれだけいるでしょうか。
彼らの多くが飲酒、喫煙、万引き、シンナーを体験し、暴力を覚えて自転車やバイクの窃盗などを犯していきます。思春期の不安定さも相まって、10代の内は警察の厄介になることが多くなっていきます。それでも20代に入ると段々と落ち着いていく子が大半です。
反対に、10代の内から一気に反社会的勢力に入ってしまう人もいます。
自身もその親も、情報弱者であることが珍しくありません。その環境しか知らずに大人になり、子育てをしていることがあります。若くして子どもを授かることも多く、経済的、精神的な余裕がないケースが少なくないため、貧困や虐待の連鎖が起こりやすい現実があります。
環境と親子の葛藤
中学校の同期だったある女子生徒は、両親との関係や経済状況に大きな問題はないようでしたが、荒れている子に憧れて、自ら行動を共にするようになっていきました。
そして自分の力を誇示するように、非行傾向のある子達の中でも質の悪い仲間を集めて、ショッピングセンターに入り浸るようになります。そこで通りかかった子連れの親子に絡み、下りのエスカレータで子どもを蹴るなどして問題を起こすようになりました。
彼女の行動は荒れている子達の中でも問題視され、揉めて孤立して行きました。
彼女の両親は環境を変えるべく彼女を連れて引っ越しましたが、彼女は反発して家出をし、より悪い仲間を頼って戻ってきてしまいました。そのうち反社会勢力に繋がるようになり、地元でも姿を見なくなりました。
生家に問題があり自然と非行に向かう子もいれば、そのような環境に憧れて、自ら入り込んでしまう例もあります。
子どもを「救う」には
私は貧困や親との関係、周囲の環境がいかに子どもに影響するのかを、身近な例によって知りました。
子ども一人が努力したところで、簡単に抜け出せるとはとても思えません。(自ら飛び込む子は別として)
大人になった今、当時の児童相談所は何をしていたのかと考えることがあります。今は子どもを保護する際の強制力が高まっていますが、この時は違いました。また、既に非行が見られる大人を信用していない子どもが、自らの辛い環境を大人に訴えるかと言ったら、難しいでしょう。
彼らは自分たちの生活や心を守ることに一生懸命ですから、周囲が善意で進言しても突っぱねることが珍しくありません。今後の展望など考える余裕がなく、同時に挑戦する意欲も育たないからです。
しかし彼らの背景を知らない人は、なぜ彼らがそうなったのかを知らないので、「そういう人なのだ」と理解し、距離を置くようになっていきます。悲しい連鎖が起こっているのです。
【育った環境と更生】EXIT兼近氏が非難されているのを見て思う事
2023年2月現在。ルフィと名乗る男が指示をしているとみられる、凶悪な連続強盗事件が起こっています。
そのルフィが芸人のEXITの兼近さんとかつて知り合いだったと分かり、話題となっています。
兼近さんには二度の逮捕歴があることが知られています。
逮捕当時に実名報道されていたにも関わらず、今も本名で活動しています。
過去を認め、隠すつもりがないことの現れでした。
何を更生とするのかわかりませんが、死ぬまで更生はできないんじゃないか?
死ぬ時に自分を許せたらいいなぁって感じ!— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
その返しを15年くらい続けてたら戻れないところまで来ました。
人のせい、社会のせい、何かのせいにして怨みすごした。
漫画や本、エンタメに沢山触れていくうちに考え方や視野が広がり、自分に原因があることに気付く
少しずつ、自分の環境に違和感を感じていき、身近な人の助けで世界を変えました!— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
兼近さんは、過去の行動を責められるのは仕方がないと語っています。兼近さんを擁護するファンに向かって、「(責められることを)気にしていないから(当然だと思っているから)、心配しないで」とメッセージを出しています。
ルフィは周囲に「兼近を騙して逮捕させた(強盗現場の開錠役をさせた)」と武勇伝のように語っていたという事ですが、兼近さんはTwitterで事実かどうかを聞かれてこう答えています。
ありがとうございます!事実なんてみなさんはどうでも良いのです。
喋らなければ「もっとやってる」「反論ないから事実」「説明しろ!」説明をすると「言い訳するな」「黙ってろ」「反論すんな」になります。
皆には過去の十数年どうしてたかなんて見えていない。今この瞬間から見せてくだけかなと!— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 31, 2023
兼近さんは良くも悪くも言葉が率直で、飾りません。
それらを見ていると、そう言えば私が知るかつて荒れていた同級生たちも、言葉を飾らず、多くを語らなかったことを思い出します。
決して楽に生きてきたわけではない過去を“上手く”語るのは難しいのです。
騙される環境に自ら身を置いていて、何より無意識にでも意識的にでも人を傷つけてきた人間なので、騙されたから大丈夫で終わってほしくないなぁって気持ち!
— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
私が知る荒れていた子達も、大半は20代前半で落ち着きました。
落ち着かなかった子の行く末は詳しくはわかりませんが、「その道に行ったらしい」という噂だけ聞いています。ここまで来てしまうと、戻るのが難しいのは、確かかもしれません。
低いと思います!更生して欲しいと思ってますかね?戻ってきても社会的孤立確定です。
そんな人を生み出さないように取り残さないように恵まれない家庭支援や教育的な支援、最後に更生の支援の順番でやっています!地域格差や貧困格差にも目を向けています!
でも放っておくのも違いますよね、、— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
私は更生するための社会の仕組みが必要だと思っていますが、尊厳を根こそぎ奪い精神を壊す行為である強姦事件や強盗は、更生の予知など不要だと思うほど許しがたい、という個人的な感情を持っています。(兼近さんの逮捕歴とは関係のないものです)やはり犯した罪の内容により、更生についての社会の目の厳しさは変わるのではないかと思います。
色々と難しい部分がありますが、兼近さんの後悔の言葉に嘘は感じません。非常に率直です。
彼が社会の目に潰されることがもしあったら、彼が問題なのではなく、社会に問題があるのではと思ってしまうほど、心に伝わるものがあります。
知ること!そして寄り添う!
階層にハシゴをかけることだとおもっています!出来る限り登りやすいように!!— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
実際の被害者や、準ずる立場に立った経験のある方が、兼近さんに辛い過去を投影して「許せない。人前に出るべきではない」と思うのは仕方がないことです。賛否あって当然です。
反省を知らない人がいますから、社会の厳しい目が必要だとも思います。
私は都内で一人暮らしをしていた部屋に空き巣が入ったことがありますが、大きな被害はなかったものの、家に帰れないほど怖い思いをしました。怖い思いが消えないうちに「犯人が捕まりました。若い男性で、恵まれない環境で育ったので許してください」ともし言われたとしたら、「そんなの私には関係ない。許せない」と思ったことでしょう。(実際は犯人は捕まっていません)
10年以上前の話しです。当時私は20代中盤で、東京23区内で一人暮らしをしていました。ごみごみとしていて死角が多く、車両が侵入できない道が少なくない街でした。そこで空き巣に入られます。空き巣に入られた時の様子、鑑識や警察の対応、盗まれたも[…]
それでも、私は兼近さんを応援しています。
きっと、かつての同級生たちを応援することにもなると思うからです。
こちらこそ!家庭はもてません。それは世の中が許しません!本名で続けていますので!
— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
何を更生とするのかわかりませんが、死ぬまで更生はできないんじゃないか?
死ぬ時に自分を許せたらいいなぁって感じ!— EXIT 兼近 (@kanechi_monster) January 30, 2023
私が通っていた中学校の保護者会は、いつも長時間に及びました。荒れている生徒の保護者は出席しないか、出席しても泣き通しであることが珍しくなかったと聞いています。
教師も保護者の多くも子どもたちも、皆が頭を悩ませていたのに、どうにもなりませんでした。
保護者の多くが、彼らの貧困問題を知らなかったようにも思います。
後に教師たちが一斉に入れ替わり、体制が変わったことで、学校崩壊は解消されたと聞きました。しかし荒れた子達が学校に来れなくなっただけで、いなくなったわけではありません。
貧困の解消と、特定の大人からの愛情を実感できる“居場所”を作ることが大切ですが、そこに到るのは簡単ではありません。
私は当時の彼氏に、毎日おにぎりを作ることくらいしかできませんでした。
今の私には何ができるのか、考えています。
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