愛人生活を続けたある高齢女性の話です。
好景気時代を経験し裕福な生活を続けてきたというその女性は、ある罪で警察に出頭することになりました。
虚しさを感じた一件でしたので、お知らせします。
ビジネスホテルの裏話
今から17年近く前の話です。
大学時代、苦学生だった私は、週に4日から5日ほど深夜のビジネスホテルのフロントのアルバイトをしていました。
観光地として有名な場所だったため、昼間は観光客やビジネス利用者が多くいましたが、夜は一転して客層が変わり、薬の売人や暴力団関係者、ホストやキャバクラ嬢、デリヘル嬢や立ちんぼなどが出入りしました。
地方都市のビジネスホテルで4年間、深夜のフロントアルバイトをしていました。働いていたのは15年ほど前になります。観光地でしたが、夜は暴力団関係者などの危ない人たちが動く、危険な街でした。ホテルはその後別事業のコスト返済が回らなくなり[…]
☟の続きです。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://kirinroom.com/2020/06/14/budget-hotel-at-midnight/ target=][…]
400ある客室には、数年住み続けている客が複数人いました。
当時現地で有名だったディスカウントショップの会長や社長、 警察が把握した上で泳がされ続けている薬の売人(ホテルと警察が連携上所在を管理)、ボーイと不倫関係にあるらしいキャバクラ嬢、数社大手社長の愛人を自称する高齢女性です。
愛人生活を続けた高齢女性
当時私は大学生で、家賃や生活費、画材代を稼ぐのに精一杯の生活をしていました。
彼氏がいたり別れたり、大学の課題を深夜アルバイトの休憩時間に仕上げてそのまま大学に行き、空いている講義室の床で仮眠をとるという、落ち着かない日々を過ごしていました。
人生経験が浅い私にはホテルの幅広い客層が刺激的でした。
夜のフロントは客の出入りがあるものの、昼間ほど忙しくありません。
その分少人数で対応するのですが、時には客とフロント越しにじっくり話をすることがありました。
十年ぶりに仕事でこの地を訪れ、ぼったくりに遭って落ち込んで戻ってきた客の話を聞いたり、セレブ家系なのか人に言えない商売をしているのか不明な、派手な男性二人組の数百万単位のバカラ事情を聴くなど、刺激的な話で溢れていました。
よく話をした客の一人が、ホテルに住む60代中盤の女性でした。
彼女は深夜や早朝に度々フロントを訪れました。
数日分の部屋代を支払ったり、預けた部屋の鍵を受け取るためでした。
小柄でしたので、高めに作られたフロントが少し不便そうでした。
綺麗に化粧した顔で笑顔をのぞかせ、周囲を和ませていました。
彼女は私に「若い頃から、何人もの社長たちに食事やプレゼントをいただいて生活しているの」と話しました。
愛人が誰を傷つけ、どういう立場かを理解していなかった私は、いつも高価そうなジャケットやスーツを着てきらびやかなアクセサリーを身に着けていた彼女を見て「優雅ですね」と答えて話を聞いていました。
「今は景気が悪くなって、以前より会う社長は減ってしまったけど、私がいないとダメな人がいるのよ」と柔らかく笑いました。
「彼女がいないとダメなのに、妻にはしないのか」と思ったのが顔に出たのか、「私は色々な人に愛情を与えるの。彼らはお金で返してくれるのよ。それが彼らの愛なの」と笑顔で溌溂と話しました。
彼女が連泊していた3年間に、何度も同じ話を聞きました。
高齢愛人が警察に連行される
ホテルにとって、彼女は何の問題もない客でした。
事前に必ず支払いを済ませ、部屋の掃除を入れさせてくれます。(長期連泊の客の中には掃除を嫌う客がいます。違法な物を持ち込んだり下水を詰まらせたりゴミを溜め込む割合が高く、ホテルが管理できないため困るのです)
アメニティをやたら欲しがるといった問題行動もなく、ありがたい客の一人でした。
ある晩、私が出勤すると、ホテル前にパトカーが停められていました。
夜は治安が良くない土地でしたので、パトカーや警察をよく見ていました。
気にせずホテルに入りフロント前を通ったところ、フロント裏の事務所から警察と共に彼女が出てきたのです。
彼女は俯きがちでしたが、私と目が合いました。
無心のような何とも言えない表情のまま、警察に付き添われてホテルを出ていきました。
私は驚き、昼のフロントメンバーに何があったのかを聞きました。
「窃盗したのよ」と教えられました。
愛人女の窃盗
その日の夕方、ある酔っぱらった女性数人組の観光客がチェックインしました。
前払いでしたので、女性達はそれぞれ財布を出して支払いを済ませました。
チェックイン処理が終わり、女性達がエレベータに乗り込んでいきました。
15分ほどして、先ほどチェックインした女性の一人がフロントに内線電話をかけてきました。
「財布をなくした。フロントで支払った時に出したので、フロントにないか」という内容でした。
電話を受け取ったフロントメンバーはフロント周辺を探しますが、見つかりません。
「ない」と伝えると「そんなはずはない」といってフロントに直接やってきました。
女性客と一緒に周辺を探しますが、ありません。
フロントから部屋までの道中にもありませんでした。
この時間、ホテルの人の出入りは少なく、なくなるのは不可解でした。
「絶対にフロントにあるはずだ」と女性客が訴えました。
そこでフロントの防犯カメラを確認することにしました。
そこには、確かに女性客が財布を置き忘れる映像が映っていました。
ロビー側のフロントの一部が一段下がっており、借りの物置にできるようになっていて、そこに置き忘れたのです。
通常は忘れ物がないかフロントメンバーが確認するのですが、財布を置き忘れたところがフロントに置かれた小さな植木の裏だったため、死角となって見落としていました。
少しして高齢の愛人女性が外出から戻ってくる姿が映っていました。
愛人女性はフロントに立ち寄った際、部屋の鍵を受け取ると当時に、翌日の部屋代を払うといいました。
そして置き忘れられた財布を自分の物のように手に取り、そこから部屋代を出したのです。
支払いを終えた後、自分のバッグに入れて持ち去る姿がしっかりと映っていました。
罪を認められない愛人女性の弱さ
防犯カメラに映っていた事実を女性客に伝えると、持ち去った愛人女性が罪を認めて返してくれれば大事にしないと言いました。
そこでホテルの支配人が愛人女性の部屋にコールをして問いただすと、愛人女性は「財布など知らない」と怒って否定をしました。
防犯カメラで確認をしたと伝えても、認めません。
無理矢理荷物検査をするわけにもいかず、女性客と相談した上で警察に通報することにしました。
警察が問いただしても、愛人女性は窃盗を認めませんでした。
そこで警察立ち合いのもと、愛人女性と共にフロント裏で防犯カメラを確認しました。
そこでやっと「私が盗った」と認めました。
中々窃盗を認めないことに女性客は怒り、愛人女性は警察に連れていかれることになりました。
そこで出勤前の私とすれ違ったのでした。
「愛情は金」の虚しさ
私は親しくしていただけに、驚き、残念に思いました。
愛人女性の手法は、慣れた泥棒のやり方でもあると聞きました。
あれだけ華やかな生活を語っていたのに、どうして身近な場所でコソ泥のような罪を犯したのか理解に苦しみました。
聞いた話全てが嘘だとは思えませんでした。
かつて華やかな生活をしていた愛人女性の心境を想像しました。
「昔は本当に愛人だったんだろう。でも年食った家も何もない女に、この不景気の中金出す奴はいないだろう」とフロントのナイトメンバーが言いました。
「私は色々な人に愛情を与えるの。彼らはお金で返してくれるのよ。それが彼らの愛なの」
こう言っていた愛人女性は、若い女性の財布を盗みました。
「愛情は金」といった女性は金を盗み、それを問い詰められても認めませんでした。
こんな虚しい犯罪があるのかと、愛人女性の人生に同情しました。
今思うと、大学生の世間知らずの私に同情されるほど、虚しいことはなかったかもしれません。
高齢愛人の末路
愛人女性は夜遅くになってから、泣きはらした目でホテルに戻ってきました。
マスカラが溶けて頬につたい、いつもの華やかさはみじんもありません。
いつものように「お帰りなさいませ」と声をかけましたが、彼女は目を合わさず黙ってエレベータに乗り込んでいきました。
警察からホテルに入った情報では、被害女性が情をかけて被害届を取り下げたと聞きました。
身元引受人が必要だと思っていましたが、彼女は一人で帰ってきました。
軽微な犯罪で初犯、被害者が温情をかける場合に微罪処分となることがあるようです。
その場合は身元引受人が不要なのだとか。
出来心だったのか、捕まっていないものの常習犯だったのかはわかりませんでした。
愛人女性は翌日、荷物をまとめてチェックアウトしていきました。
その後彼女がどうしているかは知りません。
愛人生活に愛はあるのか
彼女が本当はどんな人生を送って来たのかは、わかりません。
ですが「愛人」が空虚な存在であることはよくわかりました。
誰の一番にもなれない、寂しい女性に見えました。
愛の代わりに金をもらっても、虚栄心を養うばかりで心は満たせないと学んだ一件でした。
地方都市のビジネスホテルで4年間、深夜のフロントアルバイトをしていました。働いていたのは15年ほど前になります。観光地でしたが、夜は暴力団関係者などの危ない人たちが動く、危険な街でした。ホテルはその後別事業のコスト返済が回らなくなり[…]
生きていると、納得がいかないことがたくさんあります。世の中理不尽なことが多いのです。ここで挙げるのは、「ちょっと笑える!? 納得がいかないこと」です。私の人生で「何だか納得がいかなかったこと」をお知らせします。納得が[…]
「一糸まとわぬ裸体をさらす」事実が変わらなくても、見る側、見られる側の意識によって、それは芸術にも卑猥にもなりえます。その境はどこにあるのか。自身の経験から考察します。ショーパブは芸術か卑猥かある地方都市の繁[…]