芸人・セレブ・児童相談所に追われた親子【ビジネスホテルの裏話①】

地方都市のビジネスホテルで4年間、深夜のフロントアルバイトをしていました。
観光地という立地でしたが、夜は暴力団関係者などの危ない人たちが動く、危険な街でした。
働いていたのは15年ほど前になります。ホテルはその後別事業のコスト返済が回らなくなり、倒産して今はありません。

「嘘でしょ?」とにわかに信じがたいほどの事件が数々起こります。

警察がマークしているホテルに住む薬の売人、風俗従事者、夜中に出入りする暴力団の下っ端、法人契約している会社のお笑い芸人、雑貨チェーン店の会長と社長など、観光客やビジネス客以外にもバラエティに富んだ人たちが出入りしていました。
いわくつきの部屋、暴力団に追われて大怪我をして逃げ込んだ客を逃がすなど、なかなか味わえないエピソードが多くありますので、記したいと思います。

ビジネスホテルの客層は広い

法人契約をしている会社のお笑い芸人が多く訪れていました。
私は当時テレビを見る時間が殆ど取れていなかったためお笑いに疎く、フロントに来られても気づかずにチェックイン処理をしていました。

キーを渡しエレベータに乗り込むのを確認すると、フロントのナイトマネージャーが、今の芸人の○○だったね。本当に小柄なんだなぁと言うので、初めて気が付く具合でした。

頻繁にホテルを利用する芸人がいる一方、その相方は一度もホテルを利用しない、というパターンも多くありました。
コンビ芸人でも私生活では生活を分けることによって、それぞれが新しい感覚を養ったりするのだろうかと思っていました。

ビジネスホテルはラブホテルじゃない! 

と言いたくなるほど、デリヘルや立ちんぼのお姉さんを連れてくる芸人もいます。

また連れてきた。おや、今日も連れてきた。といった風に、エレベータの前に女性を待たせてチェックインを済ませ、部屋に入っていきます。

シングルで取っている部屋に、別の人を連れ込んではいけません。
話しをしたいのであればロビーを利用していただかなければなりません。

一般のお客さんであればモニターで確認し、部屋にコールをしてダブル料金の差額をもらいます。
15分ほどは待ちますが、それ以上はすぐに出たとしてもいただくように指導されていました。
ケチだと思うかもしれませんが、安価で提供するビジネスホテルですので売り上げに大きく関わるため、徹底していました。

しかし法人契約している会社が相手となると、そうもいきません。
シングルの部屋に何人も一晩いるとなると見逃せませんが、立ちんぼのお姉さんであればせいぜい一時間程度ですので、見て見ぬふりをするのでした。

立ちんぼのお姉さんは過酷です。
夜も浅いうちはいいのですが、明け方4時半や5時ころに、ホテルの入り口前で暴力団員によく怒鳴られていました。
「もっと客を捕まえて来いよ!」と怒号が聞こえ、ど突かれています。入り口前にあるモニターで確認すると、お姉さんは道にしゃがみ込み泣いているようです。

しかしフロントメンバーには何もできません。余程酷い暴力を受けているなら助けに行くかもしれませんが、商品である彼女たちにそのようなことはしないようです。
彼女たちが在留資格があるかもわかりませんし、警察に届けると彼女たちが食えなくなる可能性がありました。

黒い世界でした。

立ちんぼが警察を呼ぶ

ある部屋に立ちんぼが入っていきました。
ナイトマネージャーが部屋に入るのを確認しました。
少し待って部屋にコールをするつもりでいたら、その部屋からフロントにコールがありました。

おや? 

とナイトマネージャーが受話器を取ると、片言の女性が何やら泣いて叫んでいます。しかし何を言っているかよくわかりません。
どうやら受話器をめぐって争っているようです。
そうこうするうちに女性が部屋から閉め出される様子が、モニターで確認できました。

相手が女性ということで、ナイトメンバーで唯一の女性である私とナイトマネージャーが現地に行くことになりました。

部屋の前に着くと、お姉さんが床に倒れ込む体勢のまま泣いて叫んでいました。

一人だと言われて部屋に呼ばれたのに、もう一人男がいた! まわされそうになった!
警察を呼んで! あいつら捕まればいい!

と言いました。
女性の話しではシングルの部屋に男性が二人いるはずです。
部屋の前で叫ぶ女性の声が聞こえているはずですが、シンと静まり返っていました。

私は女性の元に寄り添うものの、かけられる言葉がありませんでした。
そこで知ったのは、立ちんぼは二人を相手にしないらしいということです。
それとも元から二人が相手だと言えば割り増し料金などで対応したのでしょうか。

今になってもっと彼女に何かできなかったかと考えるのですが、当時の私には何もできませんでした。

ナイトマネージャーが、

警察を呼ぶことはできますが、あなたはそれで大丈夫なの? 

と確認しました。
それでも彼女は彼らを警察に突き出すと主張したので、警察を呼びました。

彼女は彼らを逃がさないために、警察が到着するまで同じ場所、体勢で居続けました。
10分も待たずに警察が到着しました。
依然興奮状態の彼女は、私たちにしたのと同様の説明を同様の勢いでしました。
相変わらず部屋の中は静かです。

警察は、

彼らは未遂だし、それで事件化するとなると、その前に君が捕まることになるよ。国に帰らなきゃいけなくなる。それでいいの?

と説得を始めました。

時間が長くなったため、その場を警察に任せ、私とナイトマネージャーはフロントに戻りました。

30分以上の説得の後、彼女は泣きはらした目でホテルを後にしました。
警察は彼女を捕まえず、男性たちの顔も見ずに引き上げました。

日本がいかに性犯罪に甘い国であるかを実感しました。
そして、立ちんぼの女性達を暴力団が守ることはないのだと知りました。

翌朝、その部屋をチェックアウトしたのは男性一人でした。
ホテル側はもう一人を確認できず、追加料金ももらわずに終わりました。

お笑い芸人A

売れっ子お笑い芸人Aがよく泊まりに来ました。

彼には特徴がありました。チェックアウトの10時になっても部屋から出てこないのです。
部屋にコールをしても出ません。
追加料金を払って延長滞在ができる12時まで待ち、支配人がマスターキーを使って部屋に入り、起こすことが恒例化していました。

支配人は、

いつもすやすやと寝ている。声をかけても体を揺らせても起きない。ちょっと異常な気がする。

と言いました。
するとあるとき警察がやって来ました。

芸人Aに薬物使用の疑いがある。このホテルによく出入りしていることを知っている。次に来たら、部屋に清掃を入れずに警察に連絡してほしい。

と言うのです。

夜は治安の悪くなる土地でしたので、警察にはよくお世話になっていました。
ホテルには警察がマークしている薬の売人も住んでいて、その点でも警察と連携を取っていました。

しかし相手は法人契約している会社の芸人です。
ホテル側も、芸人の異常を掴んでいました。もし本当に薬物の使用となれば、逮捕は免れず、ホテルは法人を売ったことになり、契約が解除されかねません。

どちらにも悪い態度は取れないと判断した支配人は、芸人のマネージャー(支配人がどうやってマネージャーの連絡先を入手したかは不明)に電話をし、

理由は言えないのだけど、もううちのホテルは使用しないよう本人に伝えてほしい。

と話しました。
それ以来芸人Aが現れることはありませんでした。

ホテルには薬をやっているであろうやばい人が度々出入りしていました。
しかし芸人Aはそのように感じませんでした。ただ、暗いオーラが漂っていました。

それから10年以上経ったころ、当時その芸人が精神的やまいを抱えていたとテレビで公表します。

眠り続けていた原因と芸人の病気がどう関係するのかはわかりませんが、友人が精神的バランスを崩して睡眠障害を起こし、睡眠薬に頼っていました。深夜中々眠れず苦しみ、朝方やっと眠りにつくと、その後起きれなくなることを繰り返していました。
それを思い出し、そういうことだったのかもしれないと思いました。

警察がどういう根拠を持っていたのかは知りませんが、その後捕まっていないことを見ると、やはり違ったのかな?

違法カジノ帰りのイケメンセレブ

日付が変わるころ、たまに現れる若い男性二人がいました。
二人とも長身でとてもハンサムです。

和テイストの上質な柄が入ったTシャツとハーフパンツを履いていて、腕やふくらはぎ全体に大きくタトゥーが入っていました。
暴力団の入れる入れ墨とは違い、洋物です。

彼らは酔っぱらってホテルに戻り、鍵を受け取る際にフロントマンと話しをするのが常でした。

今日はバカラで150万勝った。
まあ、昨日は200万負けてるけどな。

と数百万を賭けて勝った負けたと話しをするのです。
とても嘘や見栄とは思えない話しぶりです。

ホテルに泊まるときはバカラをしに来ているようでした。バカラは違法な賭け事ですから、暴力団が回している場に出入りしているのだと思います。

それにしても彼らは何者なのか?
堅気ではなさそうですが暴力団とは違うようです。そして大金を持っています。誰かから巻き上げた金ではなく、セレブのような雰囲気がありました。

しかしとにかく格好いい!
洗練された雰囲気があり、お洒落でイケメンでしたので、女性にとてもモテるだろうと思いました。
最後まで彼らが何者かわかりませんでした。

イスラムの夫婦

二か月に一度来られては、数日宿泊する夫婦がいました。

夫婦はなぜか深夜にフロントにコールをかけてきます。そして決まって、何を言っているのかわかりません。彼らは英語も日本語も話しません。部屋に来いというようなことを言っているような気がするということで、マネージャーに行ってこいと言われ、しぶしぶ部屋に向かいます。
フロントマンはその夫婦については誰も行きたがらず、押し付け合いになっていました。

部屋をノックすると、待ってましたとばかりに部屋に招き入れられます。
なぜかいつも部屋の電気が消されています。
キーを差し込むと部屋の電気が点くようになっているのですが、わざわざ消されているのです。
カーテンが閉められ、デスクの手元の明かり一灯だけが点けられています。

言葉が通じないので絵で説明するために紙を持参しましたが、夫婦は紙を全く見ません。なぜだかわかりませんが、絶対に見ようとしません。
私の目を真っ直ぐに見て、私に椅子に座るよう促し、私の頭をゆっくり撫でます。

正直、マジで怖い。

大抵15分くらいすると部屋から出ていいと促されます。
何をしに呼ばれたのかわからないままフロントに帰ります。
未だに彼らが何をしたかったのかわかりません。

後に仕事で、インドの権力者の写真展の仕事をするのですが、その権力者もジェスチャーや紙の説明を全く見ようとしませんでした。その時には通訳がいたので無事に進みましたが、国民性なのでしょうか?
夫婦も権力者も「言葉が話せないなんて哀れね」と言うような目をするので、ホテルで頭を撫でられ続けるストレスを思い出して、自分が情けなくなりました。勉強が足りませんね。

どなたか、イスラム系の方の文化をご存じの方がいたら教えてください。

児童相談所に追われた親子

ある日、非常に体の大きい女性が、幼い男の子と女の子を連れてチェックインしました。それ以降連泊するようになります。
女性は昼間、子どもをホテルに残して長時間外出するのが常でした。
朝女性が外出すると、子どもたちはフロント前のロビーに現れ

お腹が空いた。

と繰り返すようになりました。女性が非常に大きい体をしているのに反して、子どもたちはとても痩せています。男の子はよくしゃべる子でした。

あの人に部屋を出るなと言われています。僕たちが部屋を出たことは言わないでください。あの人は鬼です。殴られますから絶対に言わないでください。

と繰り返しました。母親を鬼と表現し、頻繁に繰り返しました。

男の子は5歳だと言います。女の子は2歳程度と言っていたと思います。まだ歩き方がおぼつかない年齢で、フロントマンに話しをすることはありませんでした。
男の子は5歳だとは思えないほど、しっかりとした敬語を話しました。言葉の選び方も大人の様でした。

僕たちはお腹が空いています。あの鬼が置いていくご飯では全く足りません。

と言います。
私は驚きました。この親子がホテルに住みだしてから、毎日このような状況だと支配人が言いました。私は通常夜のフロントに入っていたので、昼間のフロントに入るのは珍しいことでした。
こんなに幼い子どもたちに留守番をさせる時点で虐待ではないかと思いました。子どもの証言もあります。母親は非常に太っているのに、子どもたちはガリガリです。

今から15年ほど前の話しですので、今より虐待に対する感覚が緩い時でした。見える部分に怪我や打ち身は見当たりません。支配人は、母親は風俗従事者ではないかと言いました。

あの人は男を相手にしている。

というような発言を男の子がしたからです。また、ホテルにはデブ専デリヘルを好んで呼ぶ常連のビジネスマンが数人いて(追加料金徴収済み)、その体つきや身のこなしがとても似ていました。

女性が夜にホテルに戻るときには、コンビニで買ったと思われる食糧を大量に持ち込んでいました。
そのうちのどれだけの量を子どもたちに与えているのかわかりませんでした。

支配人は子どもたちを不憫に思い、昼間に朝食バイキングで余ったパンやジャムを与えていました。
保護者の了解を得ずに与えることはアレルギー面からしても避けるべきことでしたが、男の子が異様なほどしっかりしていたので確認した上で与えていました。

警察か児童相談所に連絡するべきでは? とフロントと支配人が検討し出したころ、ホテルにある電話が入ります。

それは別の地方都市の県にある児童相談所からでした。
一体どうやってホテルを特定したのかわかりませんが、ホテルに来る前はその県に住んでいて、児童相談所では虐待の危険性が高いとマークしていたのだと言います。
しかし母親とのコミュニケーションがうまくいかず、逃げるように行方をくらましたのだそうです。

通常県を跨ぐと児童相談所の管轄が変わるそうですが、ホテルのある県の児童相談所に連絡したもののどう動いてくれるかが分からず、心配で連絡してきたと言います。
また所在が分からなくなるのが怖いので、チェックアウトするようなことがあったら連絡が欲しいということでした。
児童相談所との電話連絡は支配人が対応していました。しかし支配人はホテル内ではおしゃべりなので情報が筒抜けです。

ホテルのアルバイトに入るたびに子どもたちの様子が気になりましたが、チェックインから二週間と少しして、突然チェックアウトし行方が分からなくなりました。

あの子供たちは今どうしているのでしょう。
虐待の調査で行方が分からない子どもが数十人いると発表されますが、その一端だったのだと思います。

親子がチェックアウトしてホテルに安堵と心配の両極端の空気があったことは事実です。今思うと見過ごした私を含めたホテルの対応は、虐待の加担と取られても仕方ないと感じます。

恐らく男の子は発達障害だったと思われます。そうなると母親も可能性があります。当時は発達障がいという特性について知られていませんでした。そういった知識があれば、話の仕方やアプローチの仕方を工夫できたように思います。
特性を知ることで世間との軋轢を減らすことが可能と考えます。生きやすくなれば自分に自信を持ち特性を活かそうと考えられるかもしれません。男の子の印象的で独特な言葉選びは文筆家に向いているように感じました。

あの子供たちが今、安心できる環境にありますように。

☟続きます。

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