今から10年以上前の話しです。
私はイベントを取り仕切る会社で働いていました。
イベントの現場となるのは、東京ビッグサイトや幕張メッセ。
国際フォーラムやホテルなどでした。
特に東京ビッグサイトは都心からアクセスがよく、人気の展示会場でしたのでよく現場となりました。
そこで度々耳にしたのが「幽霊」の話しでした。
東京ビッグサイトの幽霊
ビッグサイトの展示会
東京ビッグサイトで展示会などのイベントが開催される場合、展示会の規模や内容にもよりますが7日~4日前頃から会場を貸し切ります。
事務局と協力会社のデスクを設け、設計図を元に会場に墨だしをしてバミリます。
巨大クレーンが必要な出展物がある出展者は早々に現場に入り、出展者と事務局が立ち合いのもと製品を搬入します。
電気やガス、水道会社が会場内の床下に走るピットを使って各ブースに配線していきます。
事務局が簡易装飾を申し込んでいる出展者ブースの建て込みをするのと同時に、装飾会社が建て込みを始めます。
ブースが出来上がるころレンタル備品が搬入され、その後宅配物がブースに届いていきます。
出展者の多くが現場に入るのは会期前々日から前日です。
会場の引き渡しから出展者の多くが搬入で訪れるまでのスケジュールは、大抵の場合ハードです。
展示会の事務局や協力会社は現場近くのホテルを取っていますが、ほとんどの時間を会場内で過ごします。
現場は深夜から入ることも多く、夜通し会場にいて翌日そのまま会場内で仕事をすることが少なくありませんでした。
大抵昼間は会社で仕事をしてそのまま現場に入りますので、深夜は多少疲れが出てきます。
会場内の事務局や施工会社用のテーブル、協力会社の控室でぐったりすることがあります。
深夜のビッグサイト
東京ビッグサイトの東館、西館の全館を使って行われるイベントの現場に入っていた時のことでした。
※東新館や南展示場ができる前のことです。
東館の控室にいたところ、西館に届けものをしなければならなくなりました。
時は深夜二時半でした。
同僚や先輩たちは皆行きたがりませんでした。
疲れているし、何せ怖いからです。
東館から西館へ行くには、二階の渡り廊下を歩く必要があります。
深夜の渡り廊下は数か所に防火シャッターが下りていて、照明も落とされています。
シャッター横にある非常用扉を開けて進むのですが、その上に光る非常口マークの緑の照明を頼りに行かねばなりませんでした。
広い空間に、足音が響きます。
周囲は非常に暗く、その中に浮かぶ緑色の明かりが不気味なのです。
その日、私が西館に向かうことになりました。
背中にぞくぞくとした嫌な感覚を感じながら、資料を片手に進みました。
西館・地下機械室の幽霊
通路を進みながら、協力会社から聞いていた西館の幽霊の話しを思い出しました。
地下の機械室で作業をしてふと顔を見上げると、幽霊が現れるというのです。
多数の目撃者が出ているのですが、決まって容姿が似通った幽霊でした。
恐らくは同一人物の幽霊だと言われていました。
東京ビッグサイトは多くの人が訪れます。
展示会や芸能人のコンサートが行われることがあり、多くの業者が仕事をします。
展示会では事務局や施工関連の協力会社、運営スタッフ、コンパニオン、映像技師たち、そして各イベントに数十万人の来場者が訪れます。
来場者に体調不良が出て搬送されることもありますし、施工中や製品の運搬時に事故が起こり、亡くなる場合もあります。
年間何人かの人が亡くなる展示会場ですので、幽霊がいてもおかしくはありませんでした。
機械室に現れる理由は不明でしたが、オペラ座の怪人のように地下に潜みたくなるものなのでしょうか。
北コンコースの幽霊
なぜこのタイミングで幽霊の話しを思い出してしまったのか、と自分を責めながら、「幽霊なんて怖くない!」と見せかけるしっかりとした足取りで進みました。
シャッター横の非常扉を開けて進んで行くと、エントランスホールに出ます。
エントランスホールは一面ガラス張りになっており、月明かりが差し込みます。
薄明りにホッとして西ホールを目指しました。
東京ビッグサイトをご存じの方はわかると思いますが、展示会場なので非常に広く作られています。
東ホールから西ホールに行くとなると、時間がかかるのです。
西ホールで用事を済ませて東ホールに向かいました。
届けものを終えましたので、あとは戻るだけです。
心が少し軽くなり、役目を終えた感覚でした。
南コンコースからエントランスホールの月明かりの中を歩き、北コンコース近くの緑の明かりに照らされた非常扉を開けた時でした。
扉をくぐって暗い中に入って行った私の後ろで、扉が閉まるはずでした。
何気なく後ろを振り返りました。
扉は頑丈で少し重いこともあり、油圧でゆっくり閉まるのですが、私のすぐ後ろからシルクハットを被った老人らしき男性がスッと入って来たのが見えました。
心臓が飛び出るほど驚きました。
しかし声は出しませんでした。
人? 誰? なんでこんな時間にいるの!? と心で叫びました。
時間は深夜三時になっていました。
一般の出展者は出入りができないはずの時間でした。
関係者にシルクハットの老人はいないはずでした。
気のせいかもしれませんが、シルクハットの老人から鈴のような音が聞こえた気がしました。
なにこれ、嫌だ。怖い!
怖くて仕方なくなり、早く出たい! と焦りました。
前方にも防火シャッターがあり、広い密室となったその空間には、真っ暗な中浮かび上がる緑の光しかありません。
できるだけ早くその場から立ち去りたくて、早歩きで進みました。
走ったら、追いかけられそうな怖さがありました。
次の防火扉を開けて東ホールに着くと、一切振り返らずに控室に走りました。
控室に飛び込み、開口一番「怖かった!! シルクハットのおじいさんがいた!」と言いましたが、「こんな時間にいるわけねーだろ」と先輩たちに突っ込まれました。
「本当にいたんです! あれは人ですか!? ちがう者ですか!?」
「なに、東ホールに来たならそこらへんまだ歩いてるかもよ」
同僚に言われて、控室からコンコース方面を覗きましたが、人の気配はありませんでした。
展示会場は主催者と協力会社が夜通し仕事をしますが、老人がいることは極めて珍しいことでした。
ましてシルクハットなど被っていたら、仕事にならないでしょう。
「シルクハットの幽霊の噂は聞いたことがない。きっと見間違えたのだろう」と言われました。
そうかもしれない。
でも違うかもしれない。
とにかく怖かった一件でした。
展示会場の幽霊
展示会場は大抵どこでも幽霊の噂があります。
それも多数の業者が同じ容姿の幽霊を見ているので、嘘とは信じがたいことでした。
人が多く集まる場所には幽霊も集まると言います。
東京ビッグサイトでシルクハットの幽霊を見られた方はいませんか?
やはり私の見間違えだったのでしょうか。
未だにわかりません。
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