これは私が男性ばかりの業界で仕事をしていた頃の話しです。
男性社会でさらされた無駄なストレス、体に出た症状、失敗から学んだことを記しています。
今ストレスに晒されている方に参考にしていただけたら幸いです。
働く女性が負う無駄なストレス
夕方19時頃、会社の営業部署フロアは当たり前のように社員が仕事をしていました。
そんな中、電話が鳴ります。
後輩が電話を取り、私宛ということで内線で回されてきました。
聞き覚えのない名前だけど、どこかで関わった客かと思い、電話に出ました。
電話男性A:「営業の麒麟さんはいらっしゃいますか?」
私:「営業の麒麟です」
電話男性A:「いえ、営業の方をお願いしたいのですが」
と言われます。
私は営業です。
電話男性A:「男性の麒麟さんは居ませんか」
私:「弊社で麒麟は私のみです」
電話男性A:「それでしたら結構です。女性には営業しない方針なので」
は?
電話を切られました。
仕事で使用する物品の営業電話だった様でした。
男女関係なく同じ仕事をしているのに失礼な話でしたが、女性が実権を握るわけがない、女性に営業しても無駄になると思われていたのでしょう。
一か月ほどが経ったある日の20時ごろ、会社の電話が鳴り、私宛ということで電話が回ってきました。
私:「お電話代わりました、麒麟です」
と言うと、開口一番、
電話男性B:「麒麟さんて女なの!?」
声で女性と判断したのでしょう。
先日の電話とは違う会社、違う人のようでした。
横柄で不快な気持ちになりました。
私:「どちら様でしょうか? 」
電話男性B:「おれおれ、知らない? 経理部の○○。まだ会ったことないよね。金曜日空いてる? 合コンしようよ。おれ麒麟さん知ってるよ」
馴れ馴れしい言い方をする、若い男性のようでした。
顔を合わせたことがない社員がいるような、大きい会社ではありません。
何なんだ、この虚偽男。
そんな方はいないはずですが、「何の用ですか?」と怒りを飲み込んで聞きなおしました。
電話男性B:「いるいるー。麒麟ちゃんが知らないだけ。ねぇねえ、いつ飲みに行く? 二人で行く?」
バカみたいな問答が続き、気持ち悪さとイライラがマックスに達した時、隣の席の先輩が私の異変に気づきました。
先輩:「変な電話? 変わろうか?」
いたずら電話もいなせないなんて情けない。
しかし質が悪いものの客である可能性も否定できない状況でした。
今の私ならガチャ切りしていますが、そのころの私は若かった。
先輩が電話を変わった途端、先輩は電話口で仕事の話を始めました。
受話器を置いたのち、「普通に営業の電話だったよ。仕事で使う物品アイテムの営業電話」と教えてくれました。
私:「……ありがとうございました。助かりました」
と礼を言い、無性に悲しくなりました。
その頃、会社の営業で女性は私だけでした。
業界内でも女性の営業はほとんどいませんでした。
女だからと言ってなめられてはいけない、精神面でも体力面でも。
そう思いました。
働く女性の環境
例年、新入社員には先輩の既存クライアントの引継ぎがありました。
そこから自分のクライアントにしたり、新規のクライアントを開拓していたのです。
私は女性だからという理由で引継ぎをされませんでした。
女性だとクライアントが嫌がると、会議中に皆の前で先輩に言われました。
その先輩はフェミニストを装っていましたが、女性を下に見る傾向が強かったので、女性をクライアントにつけたら自分の評価が落ちると思っていたのかもしれません。
上司には、「女性営業を使ったことがなく、どう扱っていいかわからない」と言われました。
自分でクライアントを掴み、リピーターを獲ました。
他の社員と同じように、クライアントの接待でお酒を飲む機会がありました。
ある先輩には、「女はいいよな、飲めば仕事がもらえる。俺も女なら得だった」と言われていました。
リピーターのクライアントと飲みに行くことはあっても、お酒で仕事を取ったことはありません。
深夜の現場監督の仕事も、泊まりがけの仕事も、男女平等に担当するべきという方針に異論はありませんでした。
重い荷物の搬入も一人でこなしました。
しかし現場の終わりに飲食店に入った際には、「女なんだから食事を取り分けろよ」と指示をされストレスでした。
現場終わりの体力は、男性たちに比べ一番落ちていたと思います。
ストレスから自分を守るために、キャラクターを作るようになりました。
お酒が好きで、豪快で、意見をきちんと言い、下ネタも聞かれれば抵抗なく答える、少し無神経な、女性扱いしなくていいキャラクターです。
そのころから、「鈍感力」が必要だと自分に言い聞かせていました。
気にするな、気にしていたら身が持たないと。
会社でも、お客さんにも業者にも、女性だからできないと思われてはいけないと、弱音を言わないようにしていました。
男性ばかりの職場も人間関係が大変
女性ばかりの職場は、陰湿ないじめが起こりやすく質が悪いと言いますが、男性ばかりの職場も大差ないと感じました。
男性同士の派閥争いや、意地の張り合いで十年単位で不仲が続く例もあります。
ちょっとしたすれ違いが発生した際、話せばあっという間に解決することでも、言い訳は格好悪いと先延ばしにし、無駄な軋轢を生んでいました。
愚痴や陰口も多かったです。
私はお酒が好きでしたので、社員と飲みに行くことが多くありました。
女性扱いをされていませんでしたので、男女という意識は全くなく、誘われるがままに色々な人と行っていました。
当然、誰が誰の悪口を言っていた、などは絶対に話しません。
しかし、ありもしない事実を噂されていた時には、それは誤解だと話しました。
男性は感情を言葉にするのが苦手で、人の気持ちを察する能力が女性より低いと言いますが、その通りだと感じていました。
仕事のストレスによる体の異変
繁忙期には月の半分が現場に入りっぱなしになり、帰宅できませんでした。
繁忙期に入る前も、クライアントとの打ち合わせや現場の準備で忙しく、日付が変わってから会社を出ることが多くありました。
ある深夜の現場で気分が悪くなり、トイレで嘔吐しました。
少し体がふらつくけど、熱はないし大丈夫だろうと現場をこなしました。
そのうち深夜の現場に入るたびに吐き気に襲われるようになりました。
嘔吐には慣れていましたし、他に症状はなかったので、数年放置していました。
数年後、同僚と飲んでいる最中や、就寝前にも吐き気に襲われるようになりました。
そのころから、腹部に強い鼓動を感じるようになります。
営業に女性が入ってきました。
セクハラや仕事上の相談を聞くようになり、改善が必要なことは会社に求めるようになりました。
先輩からは益々生意気だと言われるようになります。
実家の問題(家を出ていますが、巻きこまれました)と仕事ストレスが重なり、手足が頻繁に痺れるようになりました。
相変わらず腹部の鼓動が強く、服の上からも鼓動しているのがわかる状態が何年も続いていました。
こんなところに脈があるのだと思ったものでした。
社内で仕事をしている最中にも吐き気に襲われるようになりました。
仕事に支障が出るし、良くない状態だと思い、内科を受診しました。
そこで、十二指腸潰瘍か胃がんの可能性があると言われ、胃カメラなどの検査をしました。
結果、身体に問題は見られず、精神的なものだろうと診断されました。
精神安定剤を出すが、これで効果があるかはわからないと言われました。
精神的な病に陥った社員が数人いました。
精神安定剤はぼうっとすると聞いていましたので、仕事に差し支えると思い、処方を断りました。
気の持ちようだと自分に言い聞かせましたが、症状は進行していきました。
結婚の話が進み、同棲をするために会社のすぐ近くから引っ越し、電車通勤となっていました。
電車で呼吸が浅くなり、冷や汗が出て立っていられなくなりました。
数駅電車に乗って下車して休み、また数駅乗って下車を繰り返し、通勤しました。
滅多になかった遅刻や欠勤もするようになりました。
それは決まって朝起こるのでした。
ある日仕事中に高熱を出し、内科を受診しました。
たまたま入ったクリニックは漢方治療を主としており、東大の医学部生が研修に来ているところでした。
非常に個性的な先生で、フィギュアが壁に並べられており、病院選びを間違えたかと思いましたが、診察結果に驚きました。
変人医師の診断 妊娠とストレス
発熱で受診したのに、全身の触診を受けました。
全身の浮腫み、腹部の強い鼓動と熱、手足の痺れと冷えを確認し、仕事は何をしているか、家族や彼氏とうまくいっているのかを聞かれました。
こんなに強い反応見るの初めてだよ。
腹部の静脈瘤が鼓動し続けている。
強いストレスがかかると一時的に鼓動するものなんだけど、それがこんなに強く鼓動し続けているのは初めて見た。
これは常時強いストレスにさらされていることを意味するんだよ。
鼓動のせいで腹部あたりが熱を持っている。
あなたの身体は水分をため込んでいるので、指先は冷えるが腹部は熱いという温度差が生まれ、のぼせやすくなるし、ムカムカしやすくなる。
また、胃の中にも水分が溜まっているから、動くことで胃液が上って来やすくなる。
嘔吐はそのせいだよ。
痺れもストレスからくる症状だよ」
発熱で行ったのに、話していない身体の症状を言い当てられ、驚きました。
余分な水分を抜くものと、精神安定的な作用のある漢方(もう一種類あったけど忘れました)を処方されました。
ストレスで妊娠もしにくくなる。
女性はストレスのかかる仕事をしないほうがいいんだよ。
あなたもストレスから解放されないと妊娠できないよ」
女性だから仕事を無理に頑張ってはいけない、というのは医師の個人的な意見だと思います。
これまで女性は~と言われることに抵抗がありましたが、医師の言葉はすんなりと私の中に入ってきました。
結婚が間近に迫っていましたが、子どもはいつか欲しいという程度で具体的に考えておらず、まだ仕事がしたいと思っていました。
漢方の処方が切れる度に受診し、数か月後。
環境を変えないと。
自分の身体を大事にしないと。
このフィギュアあげるから考えてみて」
フィギュアには全く興味がなかったので断りました。
結婚し、夫と猫二匹との生活がスタートしていました。
私のストレスの多くは育った環境や親との関係にありましたが、親との問題は解決しようがありませんでした。
少しでも解消しようと悩んだ末、退職を願い出ました。
働く女性が得たもの
半年近くかけて引継ぎをしました。
何のために頑張ってきたのだろうと考えながら、クライアントに引継の挨拶をしました。
すると
〇 あなたのバイタリティを貰い、自分も仕事に前向きになれました。
〇 あなたに憧れている人がいることを忘れないでくださいね。
など、勇気づけられる言葉をたくさんもらいました。
仕事をしたくて無理をして頑張ったけど、身体を壊して退職することになり、私は一体何のために頑張ったのだろうと無力感で一杯でした。
女性が働く社会に必要なもの
退職後、警察官夫婦と知り合いました。
女性警察官はしばらく前から増えている印象でしたが、まだまだ男性中心の世界だと言っていました。
彼女は先輩の女性警察官に、
「男性社会に合わせる必要はない。あなたが無理をすることで、後輩の女性も同じように無理をしなければならなくなるのよ。」
と言われ、無理をせず訴えるようにしていたのだそうです。
その言葉に、私の答えがありました。
私は頑張るところを間違えていたのだと痛感しました。
どうしたら怠惰で、どこまで行ったら頑張りすぎなのか、退職前の私にはわかりませんでした。
仕事を頑張ることが私の全てでした。
退社して一年と少ししたころ、後輩の女性営業から退職の報告がありました。
上司に配慮してもらったけど、体力が持たない、続けられないと言います。
私が意地で頑張り続けたことが、後輩に悪影響を与えたのだと謝りました。
後輩は麒麟のせいではないと言いましたが、私が別のやり方をしていれば、後輩はもっと働けました。
どこからが頑張り過ぎになるのか、渦中にいるときはわかりにくいですね。
しかし体は素直に反応します。
体の声を聞くことが大事だと痛感しました。
私の経験が誰かの参考になれば幸いです。
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