産後鬱による自殺をタブー視する危険・自殺者遺族の思うこと

産後一年以内に亡くなる妊産婦の死因、第一位が産後鬱と言われています。


産後鬱は決して珍しい病気ではありません。
子どもの個性に関係なく起こり得ます。

竹内結子さんが自死され、産後一年に満たなかったことから産後鬱ではないかという憶測が流れました。
それに対し、子どもが“母親が亡くなったのは自分のせい”と責めないために、産後鬱という憶測をするべきでないという指摘がされました。

子どもを守りたい思いからの発言なのは理解しますが、一方で“産後鬱は子どものせい”と肯定しかねない危険な発言だと感じました。


少なくとも産後鬱で母親を亡くした子どもたちはそう受け取るのではないでしょうか。

私は自殺者遺族です。
自殺が家族の心をどれだけ傷つけるか、何年、何十年経っても傷が癒えないことを知っています。

だからこそ、社会に必要なのは、産後鬱がどの妊産婦にも怒り得るという正しい知識と、サポート体制であると考えます。


社会が変われば、例え母親が産後鬱で亡くなったとしても、子どもが「自分のせい」と責めることはなくなるでしょう。


産後鬱の実態と、産後鬱の予防についてお知らせします。


※竹内結子さんの自死が産後鬱にあるかは別問題として、「産後鬱による自死」を“子どもが自分を責めるから言うべきではない”と発言されたことに焦点を当てています。

産後鬱と自死の実態


2016年までの2年間で、産後1年までに自殺した妊産婦は全国で少なくとも102人いたと、厚生労働省研究班が5日発表した。全国規模のこうした調査は初めて。この期間の妊産婦の死因では、自殺が最も多かった。

朝日新聞


厚生労働省の2019年の統計では、妊産婦のうち実に8~9割が不安や負担を感じているという結果が出ており、10%~20%が産後鬱になると言われています。

産後鬱と自死の傾向



産後鬱による自死の調査では、下記のような傾向がみられました。(参考

35歳以上の高齢妊婦
無職家庭
家庭不和
サポートが受けられない環境
夫の不在、家事育児参加率が低い


当てはまらなければ大丈夫、ということではありません。
あくまでこういった“傾向がある”に過ぎません。


急激なホルモンの変化による精神不安は、産後数週間で治まると言われています。
産後鬱の原因の多くは、ホルモンではなく、環境にあるとみられています。(参考


産後鬱なった患者には以下の傾向が見られました。

〇 真面目で几帳面
〇 うつ病や摂食障害などの既往歴がある
〇 緊急搬送や予定外の帝王切開など、状況を理解しきれないままの出産(自分を責める)
〇 赤ちゃんに病気や障害がある
〇 望まない妊娠
〇 復職に関するトラブルがある
〇 人間関係や住環境の変化
〇 高齢出産(体の負担が大きいため)
〇 親との不和による自己否定感情を持っている
〇 家事や育児の負担が多い(サポート体制がない)


鬱は珍しいことではない


実際私の周りでも、「今思えば産後鬱だった」というママが少なくありません。

〇 自然と頻繁に涙がこぼれた。
〇 子どもの命を握っているプレッシャーから逃げることばかり考えていた。
〇 睡眠時間が取れず、頭がぼーっとして何もやる気が起きなかった。
〇 死にたくなった。
〇 理由はわからないが辛くて仕方なく、誰かに助けて欲しかったけど誰も助けてくれなかった。
〇 泣く子どもの口を塞ぎたかった。


泣く子どもに脅迫されている気分になり、少しの時間だけでも他の部屋に逃げたかったが、泣かせていると虐待を疑われるのでできなかった。パニックを起こし、夫や子どもに当たったという話しもありました。


私が話しを聞いたママさんたちは厚生労働省のリストには入っていませんので、鬱傾向に陥る割合は、20%よりずっと多いのではないでしょうか。



その後のママ達の行動です。

〇 このままではおかしくなると感じ、区役所の子ども課に駆け込んで話しを聞いてもらった。
〇 夫や親に泣いて助けを求めた。
〇 地域の母親教室に参加して愚痴る相手を見つけた。


区役所に泣きながら何度も電話をかけた。家に居たくなくて子どもを抱えて区役所に行き、話を聞いてもらった。という話しをいくつも聞きました。
誰かに話を聞いてもらう、背中をさすってもらうだけでも救われることがあります。

産後ハイからの落ち込み


私自身、出産時にトラブルがあったこともあり、特に第一子を出産後は泣く子どもの声を前に視界が白くなったことがあります。
幸い私は産後ハイになっていて、鬱に陥ることはなかったのですが、ガクッと精神力が落ちたのが生後4か月の時でした。


出産した産院の助産師から、「産後無理ができてしまっても、4か月経つ頃に心身にダメージが来るよ。」と聞いていた通りでした。

予備知識があったことで、自分の状態を認識できましたし、そのころ初産婦を集めた親子教室に参加して同じようなママさんたちと情報交換をしたり、愚痴を言い合う場を持てたことがはけ口となり、鬱に陥らずに過ごすことができました。


夫に助けを求めたかったのですが、仕事が忙しく家事育児に参加できる時間は多くありませんでした。夜勤がある仕事で不規則な生活でしたので、夫の睡眠時間を削ると事故に遭う危険があり、頼れなかったのです。


産後ハイは珍しいのでしょうか。
私の周りではハイより鬱傾向に陥った話が圧倒的に多かったです。


自殺者遺族の気持ち


冒頭にも書いたように、私は自殺者遺族です。


私は親族であり、家族ではありません。

従弟が亡くなった日から親族の集まりがなくなりました。
従弟の母親は、親族が誰も責めていないにも関わらず、親族に会うのを怖がるようになりました。

不安定になる母親を守るため、その家族は親族との連絡を拒むようになりました。


母親の心を守るのを第一とするのは分かります。一方で、責められるのではないか、という憶測から恐怖が膨らんでしまうまでに、親族で集まって従弟を悼み、一緒に泣き、母親を労う場があるとよかったのではないかとも思っています。


あなたのせいではないよ。と周囲が包み込むことも心の支えになるのではないかと思うのです。


こういった経験から「産後鬱と知ったら子どもが自分を責める」には違和感がありました。

事実を隠していてもいつか知ってしまうでしょう。
死因をタブーにすればするほど、疑念は膨らみます。

なぜ母親の死因を隠していたのか。
子どものせいだと思っているから、子どもである自分に隠したのでは? と子どもが周囲を疑うかもしれません。

子どものせいではない


産後鬱による死だった。
あなたのせいではない。
産後鬱の原因が子どもにないことは、みんなが知っていること。


そう、子どもに伝えられる社会になってほしいと願います。


極限状態で小さな命を守ろうとする母親を、精神的、肉体的にサポートする社会づくりが求められています。



※竹内結子さんの自死が産後鬱にあるかは別問題として、「産後鬱による自死」を“子どもが自分を責めるから言うべきではない”と発言されたことに焦点を当てています。





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