持病への配慮をどこまで求める?難病患者の親の私がアミューズメント施設に求めたこと

私は三姉妹を育てる母です。
現在5歳の三女は先天性の持病があります。

難病指定されている皮膚の疾患で、一般の人と比べると驚くほど軽微な刺激で皮膚が傷つきます。
一度怪我をした皮膚はより弱くなりやすく、繰り返し怪我をした部分は完治までに数年を要します。

皮膚の深い部分が傷つくため、瘢痕が残り、皮膚同士が癒着したり癌を発症することがあります。患者の平均寿命は長くありません。

三女は軽度の中でも軽度と言われています。
癌の発症は起こらない程度で、感染症に気をつければ寿命を全うできると言われています。

しかし日々の生活において、予防は必要不可欠です。

特に弱い部位は常時包帯で巻いて保護。足元は必ず靴下を履いています。

家の中であっても、姉達に踏まれたりどこかにぶつけたり、床に落ちた干からびた米粒や菓子の欠片を踏むことで皮膚が剥がれたり水疱ができます。皮膚が繰り返し傷つくことで、爪が変形や欠損します。欠損した爪は二度と生えてきません。傷つく頻度を抑えるために、皮膚の露出をできるだけ控えるのです。

皮膚の保護をしていても傷つくのですが、軽度のためかなり軽減できます。毎日怪我の処置が必要不可欠ですが、中度以上の患者が数時間怪我の処置に時間を割かれることに比べたら、短時間といえるでしょう。

保護することで、ほぼ一般の人と変わらない程度の暮らしができます。
根治がない病気ですので、一生付き合っていかなければなりません。

それが「軽度患者」の生活です。

身体の保護をしながらではありますが、無意味な行動制限はせずに、楽しんで生活をしてほしいと願っています。

そんな中、家族でプール付きのホテルに泊まりに行きました。
プールの係員に、皮膚の保護目的で着用していたウォーターソックスを脱ぐように指示されました。

以前その施設を利用した際は着用が認められていたのですが、今年度から禁止になったというのです。
広報はされておらず、行って初めてわかったことでした。

決まりを守ることと、体への配慮を求めることへの親の葛藤と、施設側に求めたことを、備忘録もかねてここに記します。

持病への配慮をどこまで求める?難病患者の親がアミューズメント施設に求めたこと

三女は日々、肘、膝、足を包帯や靴下で保護をして生活しています。
軽度患者が特に弱く、また子どもが怪我をしやすい部位でもあるからです。

水遊びをするときは、上下ともにラッシュガードを着用、足元はウォーターソックスを着用しています。

誰かに当たっても痛みがないよう、底が硬く厚いウォーターシューズではなく、足の裏面も水着素材でできた柔らかいウォーターソックスを選んでいるのです。

ウォーターシューズ

ウォーターソックス

水の中では怪我をすることはないのでは? と思われるかもしれませんが、他の人の手足の爪が当たったり、浮き輪のつなぎ目が当たることで怪我をすることがあります。
また熱くなったプールサイドを歩くことで足の裏が火傷をして、皮膚が剥けたり水疱ができることがあるので、それを防ぐために必要です。

利用したのは、地方にあるホテルに併設されたプールでした。

私が住む横浜はどの大型プールも混んでいるので、思い切り遊ぶことができません。
そのホテルのプールは割と空いていて、思う存分遊ぶことができました。

毎年宿泊して、子どもたちとプールを楽しんでいました。
もちろん三女のみ、ウォーターソックスを履かせていました。

その後感染症予防が叫ばれて、自宅に籠る生活となりました。
今年行動制限がなくなり、3年ぶりにホテルに宿泊することにしたのです。

いつものようにウォーターソックスを履かせてプールに入場しようとしたところ、入り口で止められました。

「ウォーターシューズの着用は禁止になりました」と言われます。

施設の主張

「この子は持病があり、皮膚が非常に弱いために露出できません。
水着と同素材のウォーターソックスを履かせていているので、他の方を怪我させる心配もないのですが……」

と伝えると、アルバイトらしき女性係員は「病気であれば仕方ない」と思ったようで、中に通してくれました。

いつの間に禁止になったのだろうと思いましたが、通してくれたのでホッとしました。

もし断固としてダメだと言われてしまったら、プールの利用ができなくなります。プールで存分に遊ぶためにホテルに宿泊していましたので、来た意味がなくなってしまいます。

私は持っていたスマートフォンで、再度プールのホームページ(HP)にある「注意事項」や「よくある質問」を確認しました。刺青をしている人は隠す必要がある等の記載がありましたが、ウォーターシューズやソックスの使用を禁止する文言はありませんでした。

プールを目の前にして、子どもたちは嬉しそうにはしゃいでいます。
浮き輪にエアーを入れて、さあ水に入ろうとした時、他の係員に止められました。

理由はやはり「ウォーターシューズが禁止」という件でした。

入口で持病があることを話したら中に通してもらえたことを伝えると、「そうですか」と一旦解放されましたが、また別の係員に止められました。

それを繰り返して、私の心は若干乱れました。
係員がそれぞれ規則を遵守しようとしているのは、素晴らしいことです。しかし説明をするたびに怪訝そうな顔をされるのは、少々ストレスでした。

規則がある理由

私はかつて仕事で、イベントの立ち上げや取り仕切りをしていました。トラブルを避けるために規則を作り、想定していなかったトラブルが起きたら対処を考えます。必要があれば規則を増やしました。

規則が増えるとストレスが増しますので、無暗に増やすことはしません。
増やすなりの理由があります。

それをわかっているからこそ病気に理解を求めて規則を破り、例外を作ることがまるで「客の要望を通せ」と無理を言っている様で心苦しく感じました。

しかし私は三女の母親です。

体のハンデをカバーできるアイテムがあり、それさえあれば健常者同様にプールを楽しめるのに「ごめんなさい、どうか許してください」と懇願するばかりでは、三女が「私はこういう場所に来てはいけない」と思ってしまうのではと心配になりました。

規則に反することを認めてもらうのですから、感謝の気持ちが大切です。同時に、きちんと説明をして理解してもらう必要があると感じました。

人によっては、「規則は守るべき。守れないなら他の施設に行くべき」と思うでしょう。
しかし事前にこの規則があることを知るのは、問い合わせをしない限り無理でした。以前許可されていたウォーターシューズの使用を、HPに記載もないのに今年は禁止されているかもと問い合わせるなんて、不可能です。

ホテルに二泊する間はプールだけを楽しむつもりでしたから、簡単に引き下がることもできませんでした。
事実を説明して、ただ理解を求めました。

すると場内を取り仕切っているらしい、30代くらいの男性がやって来ました。

そこで不可解な行動を求められます。

規則の意味と配慮の限界

ここからのやり取りは事実ですが、決して施設を非難するために記すのではありません。
施設と私たち家族の立場の違いを、強く実感するやり取りでした。

男性スタッフは「感染症予防が叫ばれるようになってから、保健所より、衛生上の観点からプール外部から履いてきた履物をプール敷地内(プールサイド含む)に持ち込まないよう指導されています。ウォーターシューズ等はそれに反するため、禁止しています」と言いました。

男性スタッフは終始困った表情をしています。
三女のウォーターソックスは外部から履いてきたものではありません。持病のために保護が必要であることも説明したのですが……。

「入水時は脱いで入って下さい。どうしても履いたまま入水するなら、プールサイドでは脱いで、裸足で歩いてください」と求められました。

プール内もプールサイドも、健常者は裸足で歩きます。

なぜウォーターソックスを履いている三女だけ、プール内とプールサイドで着用したり脱がなければならないのかがわかりませんでした。

プールに入ってから何度も繰り返した説明を、再度男性スタッフに詳しく伝えました。
病名を具体的に伝えた上で、症状を説明したのです。(稀少難病のため、病名で病状がわかる方はまずいません)

「持病があり、わずかな摩擦で皮膚が剥けたり水疱ができるなどして傷つきます。一般の方が問題ない程度のプールサイドの熱でも、皮膚が剥がれます。しかし保護をしていれば問題なく遊べます。人に移る病気でもありません。プール内もプールサイドも保護が必要なんです。柔らかい素材の、水着と同じ素材の物を履いています。誰も傷つけません。是非ご理解いただきたいです」

男性スタッフは、決して高圧的な言い方ではありませんでした。
しかし仕事として、決まりを守ることが大切だったのだと思います。

「しかし入水時とプールサイドはわけて……」

スタッフが同じ説明を続けました。

「それはなぜなんでしょう? この子(三女)にとって、ウォーターソックスは皮膚の代わりなんです。水着と同じ素材でできています。他の方が裸足でプールに入水し、プールサイドも歩いているのに、この子だけそうしてはならない理由がわからないんですが……」

私は疑問に思ったことを聞きました。
スタッフが困っていることはよくわかりましたので、できるだけ軽い口調を心がけました。

「でも脱いでもらわないと……」スタッフが言葉に詰まり出しました。

夫は男性スタッフに怒りを感じたようですが、黙っていました。(夫は説明が上手いタイプではなく、怒った時は黙るかキレるかなので、この時は無表情で黙っていました)
子どもたち三人も黙って立っています。

プールサイドを行き交う方たちが、「おや、揉めているぞ」といった様子で見てきました。

「ごめんなさい。スタッフの皆さんが次々に声をかけて来られて、非常にしっかりしている施設だと感心しています。しかしウォーターソックスを許可いただけないと、遊べないんです。単純に疑問なんです。水着素材のウォーターソックスを入水時とプールサイドを歩く際で脱ぎ着する理由はなんでしょう?」

決して威圧感を出さないように伝えましたが、周囲からはクレーマーに見られていたでしょう。
最も嫌っていた人間に、私がなったように感じられました。

でも大きなプールに入れると喜んでいた三女を思うと、すぐに諦めることができません。

男性スタッフは初めて、なぜ禁止になったのかを説明してくれました。

「以前、ウォーターシューズが禁止されていなかった時に、トラブルがありました。ウォーターシューズのまま道路を歩き、プールの敷地内に入り、入水して、さらにプール脇にあるトイレを利用する際、付属のサンダルを使わずにシューズのまま入り、またプールに入水した方がいたんです。それを見ていた別の来場者が汚いと注意をして、客同士のトラブルになりました。衛生面の管理が悪いと、施設にも注文が入りました。そういったトラブルを防止するために、今年から禁止となったんです」

なるほど、と思いました。

ウォーターシューズは川や海で足を保護する目的で作られています。底が厚く、靴のように使用します。
それをプールに持ち込むと、サンダルや靴と同様の使用をしてしまうのでしょう。トラブルが起こる理由はわかりました。

対して三女が使っているウォーターソックスは、ウォーターシューズの中や足ひれの中に履くもので、その名の通り靴下の役割を果たすものです。

スタッフたちが「ウォーターシューズ禁止」と言うたびに「着用しているのはウォーターソックスなんだけど、同一視されているな」と感じていました。本来別物なのですが、パッと見た限りでは見分けがつきにくくややこしいために同一視されて、禁止となったのでしょう。

三女が履いているのを見て、他の来場者が「ウォーターシューズを履いていいんだ」と勘違いするかもしれません。
するとスタッフの手間が増えて、本来の仕事に支障が出る可能性もあります。

施設側が禁止する理由はよくわかりましたが、しかし……。

「手洗いに入る時は、ウォーターソックスを履いたままになりますが、付属のサンダルを必ず履きます。(ちなみにトイレの出入り口には消毒層があり、必ず通らなければならない作りとなっていますので、何を履いていても消毒されているはずです。心理的な問題なのかもしれません)もし他の来場者がウォーターシューズを履いてくるなどして『あの子も履いているじゃないか』と主張してきたら、私が毎回理由を説明し許可を得ていることを伝えますので、許可をしていただきたいです」

男性スタッフは悲しそうな、困惑した表情をしていました。
これ以上俺では無理! と嘆いているようでした。

恐らくは小さな子どもの持病による理由だったため、「使用禁止」を言い続けるのが辛かったのでしょう。

「事務室に責任者がいますので、責任者と話しをしてください。来ていただけますか」と言われました。

これは大事になっている!? と少々焦りましたが、きちんと説明をして理解してもらいたいという気持ちが勝りました。

夫と長女と次女はプールの敷地内で待ってもらうことにしました。
話し合いの場に三女を連れていくかは迷ったのですが、ウォーターソックスの素材等がわかる方が良いと思い、私と三女で事務室に向かいました。

事務室では年配の女性が待っていました。

また一から病気の説明をせねばと話しだしたところ、内容は既に耳に入っていたようです。

責任者の女性は私からの説明は不要と言うように遮って、こう話しました。

「プール敷地外から履いてこないことを守っていただければ、そのまま入水したりプールサイドを歩いていただいて問題ありません。スタッフには周知するのですが、時間が経つとスタッフが入れ替わるので、もしかしたら情報が行き渡らずに、知らなかったスタッフが声をかけてしまうかもしれません。また、一般の来場者に『なぜ履いたまま入水しているのか』と言われることがあるかもしれません。その際は特別に許可を得ていると説明していただけませんか」

初めから「許可をする前提」で話しをしてくれました。
表情には出しませんでしたが、私はホッとして、心の中で涙を流しました。

「ありがとうございます。今日、明日とホテルに宿泊しますので、数日プールを利用する予定です。お手間をおかけしますが、よろしくお願いします。来場者の方に声をかけられたりトラブルになることがあったら、理由と共に許可を得ていることを伝えます。敷地外ではウォーターソックスを履いからサンダルを履くことを守ります」

何度か礼を言ってプールの敷地内に戻りました。

その日は目いっぱいプールで遊びました。
子どもたちの前では楽しんでいる風を前面に出しましたが、私は許可をもらった時点で既に疲れていました。

配慮を求めることは、わがままなのか

「ママ、クレーマーっぽかった?」と子どもたちに聞くと、小学校高学年の長女が「なんでそんなこと聞くの? ママは当たり前のことを言っただけだよ」と言いました。

夫は「俺はスタッフが意味の分からないことを求めて来た時に、ちょっとムカついたけどね」と言います。

施設側がトラブルを避けるために禁止した理由はよくわかりました。
しかし私には「三女の身体の特徴を理解してほしい」という主張がありました。

感染症を起こしやすい海や川ではなく、プールを楽しませてあげたい。
保護さえすれば普通に遊べるのだから、配慮を求めることはわがままとは違う。

そう自分に言い聞かせましたが、これを万人に理解してもらうのは難しいだろうことも分かりました。

子どもが遊ぶ屋内施設では「裸足」を求められることが意外と多いのですが、そのようなところにはいきません。滑らないよう裸足が求められていることが分かるからです。

しかしプールは裸足で遊ぶことはできなくても、ウォーターソックスさえ履いていれば問題なく遊べます。

病気があるから、特性があるから理解して。この点だけ特別扱いをしてほしいと求めることは、いけないことなのでしょうか。それとも認められるべきことなのでしょうか。

健常者と難病患者が共存する社会

翌日と翌々日もプールを利用しました。

入口で「ウォーターソックスの利用を許可いただいています」と声をかけて入りました。

心配した来場者とのトラブルはなく、スタッフから声をかけられることもありませんでした。
昨日プールサイドで話しをした男性スタッフは私たち家族の顔を覚えており、笑顔で会釈し合いました。

施設にはとても感謝しています。

旅行から帰宅後に、ホテルの、特にプール管理者に向けて感謝のメールを送ろうと文章を打ちました。

できれば来年以降も利用させてもらいたいと記載しました。

私はイベントの取り仕切りをしていた経験から、来場者とのトラブルにならないよう、次年度以降の運営方法を勝手に考えていました。(いつも自然と想像してしまう癖があります)

「持病等により特別な許可がない場合は、ウォーターシューズ等を履いての入水は禁止です。許可を得ている方はリストバンドを着用していますのでご了承ください」という文言の看板を作り、リストバンドも自前で持っていく(他の来場者にも使えるよう、シェアが広く追加で発注しやすいリストバンドの束を持参)ので許可をいただきたいといった文面も含めました。

私はこういうことを考えるのが好きなので、先走って看板デザインのラフ案も作っていました。(先走り過ぎてドン引きした方もいるでしょう)

仕事の経験を活かして長く使える素材で看板を作って行けば、ホテルの負担にならないと思ったからです。しかしさすがにここまですると逆にホテルに迷惑になるかもと思い、夫にどう思うかを聞きました。

結果、「そのメールは送らないほうが良い」と止められました。

やっぱり……と思いつつ、残念な気持ちにもなりました。

「施設が今後どう対処するかは、施設が決めること。来年はホテルを予約する前に、プールでまたウォーターソックス着用の許可がもらえるかを確認しよう」と夫が言いました。

その通りだと思い、メールの送信をやめました。

感謝の気持ちだけでも伝えたかったのですが、礼を言うことで、次年度以降断りたくてもそうできなくなるかもしれないと思い、それもやめました。……許可は欲しいのですけどね。

 

この一件から数ヶ月が経ちます。
未だに感謝の気持ちは伝えたいと思っていますが、伝えていません。

伝えることが本当に施設の負担になってしまうのか。
そうでないのか。

少しの配慮で一般生活に混ざれるなら、配慮が欲しい、特別な許可が欲しいと願うことが勝手なのか。
そうでないのか。

私にはわかりません。

「楽しかった! 来年も行きたい!」と笑う三女の笑顔が、胸に焼き付いています。

関連記事

アスペルガー症候群の夫を持つ妻と話をしていて、ある人を思い出しました。私が勤めていた会社に居た、ある後輩男性です。彼は発達障がいと思われる特徴が色濃く、周囲も本人も困っていました。私は発達障がいであれば周囲のサポート[…]

関連記事

チュビファーストという筒型の包帯をご存じですか?包帯やガーゼ、サポーター、塗り薬を日常的に使用している人や、アトピー、皮膚疾患、怪我、あせもに悩んでいる方にお勧めです。私の子どもは皮膚疾患を抱えています。常に体の4か所以上に[…]

 

最新情報をチェックしよう!