意見が言えない男性・理由と、リハビリ過程のリアルな実例

「人前で自分の意見を言えない」

私の夫は、まさにこのタイプです。

夫は、人前で意見することをいとわない私を羨ましがります。

相手にどう思われるか、気にしてしまって言えない。
上手い言葉が出てこないから言えない。
俺は言えないタイプなんだ。

と言い、両親や業者に意見しなければならない場で、私を矢面に立たせました。

夫に「悪く思われたくない自己保身」「他力本願」を感じ、「ズルい」と感じることがありました。

しかしあるきっかけで、夫が人前で意見を言えない理由がわかります。

それは夫の生い立ちに関わるものでした。

何年もの時間をかけて、夫の根本にあるものについて夫婦で話しをしました。
夫は酷く納得をして、「意見を言えない」自分を脱しようとしていますが、空回りしてしまうことも。

それらについて夫の例をお知らせします。

意見ができない、言うのが怖い男

夫は人に意見が言えません。

職場で問題が起きた時、誰かが理不尽な言動をした時、責任を押し付けられそうになった時にも常に黙っています。

職場で上司に意見できないという話しはよく聞きますが、夫は一回り下の年齢の後輩にも意見できませんでした。

夫は自分の意見があるにもかかわらず外に出そうとしないので、「無口な人」「面白くない人」と思われることがあります。
談笑の場面では反抗しないので弄られ役になり、癖のある同僚や後輩からは理不尽な攻撃対象にされることもありました。

「言えない」だけで意見も感情もありますので、ストレスを溜め込みます。

帰宅後に晩酌をしながら私が夫の愚痴を聞くことである程度は発散ができていたのですが、私が出産した後は体調不良や子どもの世話で話を聞く余裕がなくなり、夫のストレスは溜まって行きました。

私は意見することを厭いません。「意見する」と言うと「自分の考えを押し付けて他者をやり込めるイメージ」を持つ方がいるようですが、意思を示した上で他者の意見を聞き、考察したり折衷案を考えて落としどころを探ったり、結論づけることなく違う意見を聞くこと全てを「コミュニケーション」だと捉えています。

だから結婚後、夫が全くといっていいほど意見を言えないことを知った時は、とても驚きました。

夫と私はSNSの掲示板で知り合い、少しの間文字だけでやり取りをしていました。
許容範囲が広い人だと思いましたが、決して意見がない人だとは感じませんでした。文字でも、その後始まった電話での会話も、初めて会った時もよく喋っていたからです。

当時夫は「初対面の人にこんなに話せたのは初めてだ」と言っていました。私は「話しやすい人」と言われることが多々あるのですが、夫もそう感じたようです。普段の夫を知らなかった私は、私以外と話す夫を見る機会が少なかったので比較ができませんでした。

夫は私にはよく話しをしました。
自分の意見も言っていました。

付き合うようになり結婚する話が出た時も、推し進めたのは夫です。
私は当時結婚願望がなかったため、夫に流されるように結婚に至りました。

夫は自分の希望を私に伝えて、私がどう思うかを聞いてきました。
私の元婚約者は私の希望をそっちのけにして自分本位に進める人でしたから、夫はとても紳士で誠実な人だと感じました。

そんな夫が、実は人に意見できないと知ったのは、スピード婚をして少し経った頃です。

職場の人間関係でストレスを溜めているようでしたので、詳しい話しを聞きだした時にわかりました。

意見を溜め込むとストレスが溜まる

ストレスの原因は、職場で有名な「癖が強いタイプ」の男の先輩や後輩に、当たられたり執拗にからかわれ続けたことでした。

詳しい話を聞いたところ、かなり粘着質な絡み方をされていることがわかります。

「先輩には、やめてください」と言い、後輩には冗談じみた言い方で「うるさいよ」と言ってみたらと伝えたのですが、夫は「言えない」と答えました。

なぜ言えないのかと聞いてみると、夫が沢山抱えているコンプレックスを挙げ始めました。

20代からほぼ白髪になり黒染めをしているとか、爪の形が変だ(当時は原因不明だった)とか、顔にニキビ跡があるだとか、短足だとか、見た目に関わることばかりを挙げ、「だから自分に自信がなく、意見できない」というのです。

夫は身長が180cm近くあり、彫りが深く目は大きく、鼻筋も通っているので男前だと言われることが珍しくありません。
容姿は恵まれているのでは? と不思議に思いましたし、容姿にコンプレックスがあるから人に意見できないと思う理由もわかりませんでした。

ストレスが溜まって爆発

夫はストレスが溜まると塞ぎ込むようになります。
話しかけてもあまり答えず、心の中で怒りを増幅させます。

「俺はバカにされている」と心の中でループさせて、起こった事実以上に悪い印象を膨らませてしまうのです。

その結果、溜まり切ったストレスが爆発して周囲を驚かせることがありました。

夫の爆発が一番ひどかったのが、私の産後です。
第一子を出産して2学年差で第二子を出産した頃が、最も“破滅的な言動”が多い時期でした。

ストレスを発散できずにギャンブルに走り、数十万円の借金をしました。小遣い制だったこともあって夫は返済に困り、無理な理由をつけて家計から金を引き出そうとしました。管理は妻である私がしていましたので、次から次へと金を必要とする夫に不信感を抱いて、家庭に不穏な空気が漂うようになりました。

夫婦の心のすれ違いが極まったころ、夫は風俗やキャバクラ、クラブに通うようになり、嬢と連絡を取るようになりました。私は夫の行動を怪しみ、スマートフォンを見たことで発覚。夫を問い詰めたところギャンブル等の事実がボロボロと露呈します。発覚数か月前から夫が家族を酷く蔑ろにしていたこともあり、私は離婚を求めました。

「意見が言えない」が夫婦を拗らせる

離婚を突きつけられた夫は驚き、私と向き合って話しをするようになりました。

何度も話し合いをして理解が深まり、夫婦を継続することにしました。私にも少なからず問題はあったものの、夫が職場での不満を溜め込んで膨らませてしまったこと、また、溜め込む癖そのものが離婚危機の大きな原因になったことは明らかでした。

なぜここまで意見を言えないのかと、疑問でした。
妻である私にはある程度ぶつけることができるのに。

色々な人間がいますから、夫は「言えない人」なのだと理解し、ストレスを溜め込み過ぎないよう私が助ければよいのだと思ったのですが、あるきっかけで「言えない理由」がわかりました。

意見が言えない男性・理由と、リハビリ過程の実例

その後私は末っ子を出産しました。

末っ子は日本に1000人余りと言われる、珍しい難病を持って産まれました。

見た目でわかる皮膚の病気で、総合病院の小児科医と皮膚科医が何人も連れ立って末っ子を見にやって来ました。産後すぐから皮膚の処置に当たるなか、私と夫は並行して医師たちから数々の質問をされました。

私は夫が医師に答えた内容に驚きました。初めて聞く話ばかりだったからです。

前例がないため文献を当たると言われ、病名がはっきり伝えられたのは生後一か月の頃でした。末っ子の難病は夫からの遺伝だったことがわかります。

夫は二十歳になるころまで病気の症状が強く出ており苦労したことや、「皮膚が人とは違う」という自覚があったこと、成人してからは症状があまり出なくなっていた(実際は症状があったのですが、幼少期ほど酷くはなかったので本人は症状がないと思っていた)ので忘れていたことを、医師たちに聞かれて思い出したと話しました。

私は数ヶ月もの時間をかけて、少しずつ夫の昔の話を聞いていきました。

夫が小学生の時に皮膚や爪の変形や欠損に悩み都内の大学病院を回ったものの、当時の日本では病気が殆ど認知されておらず診断に行きつかなかったこと。運動が得意だったけれど、異常に怪我が続いてしまうためあきらめざるを得なかったこと。幼いころから大人になるまで「自分は他の人と違う。しかし理由が分からない」と悩みながら育ったこと……。

思えば私が夫に抱いた第一印象は「酷いコンプレックスを抱えている人」でした。病気がわかり、幼いころからの苦労話が合致したことで、原因がはっきりとわかりました。

そして夫が最も心を痛めていたのが、小学生のころ皮膚に悩み、母親に「なんで俺の身体は“こんなん”なんだ!」とぶつけて泣かせてしまった一件でした。

「本当の気持ちを言葉にしても人を傷つけるだけ。言うだけ無駄。何も変わらないし、事態はもっと悪くなる」と痛感した夫は、以来何か思うことがあっても言わなくなった、と話しました。

思考の癖は幼少期の体験が影響する

思考の癖や言葉使いの癖は、育った環境や経験した出来事に大きく影響します。

小学校の頃に「言っても無駄」と思った夫は、以来気持ちを言葉にせずに溜め込むようになりました。
一般では考えられないほどすぐに怪我をしてしまうため、好きだったスポーツもやめました。

体を傷めずにスリルを感じることができるバイクに興味を持ちますが、当時高校生だったこともあり親に反対されてしまいます。夫はバイクを買うために学校に行かずにバイトばかりするようになり、見かねた親に学校に行くことと引き換えに許しを得たものの、事故に遭い長期で入院。留年しました。

進学先の専門学校で質の悪い同級生にからかわれ(虐め)、ストレスが爆発して殴って自主退学(被害者宅に謝罪に行ったところ、被害者の親が夫に理解を示すほどの内容でした)するなど、生活は不安定でした。

別の学校に入り直し卒業します。職を点々とした後に今勤めている会社に引き抜かれますが、そこでも同僚から酷いからかいを受けてブチ切れて怒ったことがあり、「あの人は切れさせたら怖いが、滅多に切れないので大概大丈夫」と囁かれるようになっていました。

夫が人に意見できなくなったきっかけがわかり、私は納得しました。

自分を知ると心が晴れる

夫は長年悩んでいた体質が、非常に珍しく、困難な難病として指定されていることを知ったことで、幼少期の満たされない思いが少し晴れたようでした。

「あなたが意見を言うのが怖いのは、病気が原因かもしれないね」と夫に伝えました。

夫から聞いた話を私なりに解釈して夫の思考の癖を説明をすると、夫は酷く納得し、「そうだ……」と呟きました。

「お義母さんを泣かせてしまった罪悪感はわかる。でも幼かったあなたが一番心を許せる母親に『なんで俺の身体は“こんなん”なんだ!』とぶつけてしまうのは自然なこと。私は将来末っ子に言われることを覚悟してる。泣いちゃうかもしれないけど、誰にも言えずに我慢されている方が母親として悲しい。だからあなたは悪くない。言ってよかったんだ」と話しました。

夫は「それでも言うべきではなかった」と言いましたが、私の話にも深く頷いていました。

癖は中々直らない・頑張った結果空回り

夫は徐々に「言うべきことは言わなきゃね」と言うようになりました。

しかし実際に耐えなくても良い理不尽に接した際に、咄嗟に「やめて」と言えるかといえば、そう上手くはいきません。

「言わなきゃ!」と思うもののすぐに言葉が出ず、帰宅してから悶々として、私に「やっぱり嫌だって言うべきだよね」と同意を求めてきました。

「そうだね。言っていいと思うよ。その場で言えたら尚いいんだけどね」と答えます。

夫は徐々に「言える。言っていいんだ」というような意気込みを言葉にするようになっていましたが、意を決して伝えようとすると、やはり怒りに任せてしまうことが続きました。理不尽には怒って伝えてもいいのですが、そうでない場合には怒りが籠ると言いたいことを整理できず相手に真意が伝わらない事態になり得ます。

せっかく意を決して発言しても「なんかわかんないけど、あいつ怒ってる」としか伝わらず、損をするケースが何度かありました。普段温厚なのに、怒りやすい人という誤解をされやすくなります。

妻である私は夫の周囲に「この人は『発言』のリハビリ中です。40代になった今やっと心の引っ掛かりを消化して前向きに進もうとしているので、温かい目で見守ってください」と弁解したくて仕方ありませんでした。しかし夫の職場にいちいち妻が口を出しに行ったら、母親気取りのヤバい妻でしかありません。また夫が怒りを込めて発言してしまうことは、相手にとって理不尽に当たります。そこを「理解して欲しい」というのは良くありません。

夫には「そこで怒ってしまうと相手はこう感じてしまうかもしれないよ」と伝えるなどして、最適な返答について夫と話し合う日々を送りました。

そんな日々が数年続いた今。

ついに夫は怒りに任せずに(怒りは心に留めて)後輩に意見することができるようになりました。その様子を見ていた夫と仲の良い先輩は夫が私とリハビリをしていることを知っていましたので、「家族に祝ってもらえ」と言い、一緒に喜んでくれました。

長かった!! リハビリに約5年かかりました。
時間はかかりましたが、人はいくつになっても原因を知って自分を理解できれば、少しずつ変われるのだと知りました。

思考の癖と性格の関係

長年の思考の癖はすぐに変えられるものではありません。

夫は意見できるようになったものの成功例が少ないので、まだまだ試行錯誤が続きます。

夫は意見を溜め込むことで酷くストレスを抱えてしまうという問題があったので改善に取り組みましたが、「変わろう」とすること自体が大きなストレスとなることがあります。育った環境が性格に影響を及ぼすのはごく自然なことですから、無理に変わる必要がないケースも往々にしてあるでしょう。

夫は変わりつつある自分に喜んでいますが、夫の足りないところを支えることで自己肯定感を高めている私は、夫が支えを必要としなくなったら寂しいという思いが少しあります。自分の工程感を高めるために夫の成長を妨げてしまっては、破滅に向かう共依存となってしまいますから、応援をやめることはありませんけどね。

こうやって人の関係は少しずつ変化し、新たなステージを迎えるのだと実感しています。

 

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