大人の発達障がい疑い・職場はどう対応している?見逃される苦しみ

アスペルガー症候群の夫を持つ妻と話をしていて、ある人を思い出しました。

私が勤めていた会社に居た、ある後輩男性です。

彼は発達障がいと思われる特徴が色濃く、周囲も本人も困っていました。

私は発達障がいであれば周囲のサポートが必要だと思い、上司や先輩に「彼は発達障がいではないか」と発言したところ「差別用語だ」と非難されました。

結局彼は誰からもサポートを受けられず、退職しました。

大人の発達障がいは、どう対応するのが正解なのでしょうか。

大人の発達障がいの疑い、症状例

私の後輩男性の例です。

後輩Aとします。

彼は当時20代中盤でした。
父親の仕事の都合で、海外と日本を数年ごとに住み替えながら育った日本人です。

発達障がいの診断は受けていません。

当時は発達障がいが知られ始めた頃でした。

テレビで度々その症状例が紹介され、当人が苦しんでいる場合があること、周囲が特性を理解しサポートすることで生活のしやすさが変わることが説明されていました。

仕事のミスを連発

後輩Aは職場でよくトラブルを起こしました。

その内容が、「なぜ?」と理解に苦しむもので社内は困惑しました。

例をあげます。

忘れ物が非常に多い

彼は財布や携帯電話をよく自宅に忘れました。

クライアントとの打ち合わせや現場管理で社外に出ることが多いのですが、財布がないと身動きが取れません。

また携帯電話は仕事に必須でした。

社外に持ち出してはいけない資料を自宅に持ち帰り、自宅に忘れて出勤することが頻繁にありました。

彼は社外に持ち出してはいけないことを理解していましたが、仕事が終わらないので持ち帰るのだと説明しました。

「仕事が終わらなくても持ち出し禁止」と説明をしても持ち帰り自宅に置き忘れるので、周囲は対応に困りました。

忘れ物をするたびに会社の電話から自宅に電話をして、親に持ってきてもらうことを繰り返しました。

周囲は何故彼が理解しないのか、不思議でした。

スケジュール管理ができない

クライアントとの約束の時間を間違えたり、忘れることが度々ありました。

彼のクライアントは海外企業でしたので、クライアントも国によってはかなりアバウトなことがあるのですが、約束の時間に社内にいないのは困りました。(私が英語が苦手なので上手く説明ができず、困った話です)

またイベントに合わせて人の手配や造作物、電気工事や印刷物の発注等をかけて行くのですが、必ずと言っていいほど期限を守れませんでした。

そのため協力会社が困り、連絡をしてきます。

彼が仕事をこなせないのであれば手伝うよと声をかけますが、「大丈夫」といつも断られました。

協力会社が困るからと迫っても、クライアントとの話の内容をメモなどにまとめていないので、打ち合わせの内容が全くわからず何もできませんでした。

仕方がないので当人に任せるのですが、発注期限を大幅に過ぎたイベント数日前に発注をしていました。

協力会社は断りたかったはずですが、私の会社が大口の発注元でしたので間に合わせるしかありませんでした。

優先順位がつけられない

繁忙期は人手が足りなくなりました。

イベント会場はとても広く、会場内の行き来でかなり時間を食うことがありました。

そのため現場に入る前に相談して持ち場を決め、自分のクライアントの対応を他の社員にお願いするケースがありました。

他の社員に任せた私のクライアントから連絡が来て、追加発注が出ました。
社員は他のクライアントに時間をとられていたため、追加品が現場に入ったかどうかの確認ができませんでした。

そこで私は、唯一担当が少なく、そのエリアを担当していた後輩Aに電話をかけました。

現在彼がやっている仕事を教えてもらい、「そちらの仕事を終えてから、私のクライアントブースに○○が入ったか確認して欲しい。急がないから今の仕事を終えてからでいい。確認が取れたら電話して」とお願いしたことがありました。

するとすぐに後輩Aから電話がかかってきて、「やっておきました!」と報告してくれました。

後でいいとお願いしたのですが、彼は私のお願いした小用の仕事を優先してしまいました。

その後さらに別件に気を取られた彼は、本来の仕事に戻るまで時間がかかりました。
そして彼のクライアントから苦情が出る事態となりました。

私は現場を取り仕切っていた上司に「私のせいです」と報告をしました。

上下関係にきっちりしている

彼は自分より後輩や協力会社に横柄な態度をとることがよくありました。

アルバイトや派遣で来られた方にも、とても物言いが強い傾向がありました。

ある大型イベントの設営現場でのことです。

後輩Aは社員や協力会社が聞いているインカムで、何度も後輩Bに「後輩Bー、まだー? まだ終わんないのー? 後輩Bー、早くー」と執拗に呼びかけました。

インカムで後輩BがAに責められる理由がわからず、後輩Bを見つけて事態を確認しました。

後輩Aは忙しかったわけでもないのに自分より後輩のBに、自分の仕事を任せていました。
後輩Bは仕事量が二倍になり、焦っていました。

「後輩Aの仕事はやらなくていい。自分の仕事に戻って」と言って後輩Aの担当資料を受け取りました。

その間もずっと続いていた後輩Aのインカムに「私がやるから待ってろ!」とブチ切れで対応してしまいました。

インカムは静まり返りました。(協力会社も沈黙していました)

後輩Aの仕事を急いで終えた後、後輩Aを見つけて直接叱責しました。

自分の仕事は自分ですること。
もし手に負えないのなら、後輩に全部託すのではなく先輩や上司に相談するよう、強く伝えました。

発注のミス

イベントにより、数百の出展企業から簡易造作の依頼を受けることがありました。

後輩Aは造作の担当となりましたが、申込書類をまとめたり、企業ごとに詳細を確認することが難しいようでした。

出展場所を間違えて違う場所に建て込んだり、注文されていない台を取り付けたり、発注自体されていない企業のブースに造作を建て込んで現場を混乱させました。

相手の立場を理解しない、想像できない

発注したものが間違いだったと分かった後、後輩Aは悪びれることなく、施工をしてくれた協力会社にインカムで撤収や修正を求めました。

私が後輩Aの立場なら協力会社に直接頭を下げてお願いして回るようなミスを、発注元だからと上から目線で言うことに違和感がありました。

立場を利用して驕り高ぶる人は度々いますが、突出しているように感じられました。

イベント終了後、協力会社への支払い額の交渉時にも問題が起こりました。
間違って発注した分の支払いを当然のように値引き対応で求め、協力会社が苦しみました。

これは社内で大きな問題となりました。
会社の信用問題にも関わるからです。

後輩Aは大工や職人の仕事を明らかに下に見ているように感じられましたので、協力会社がいかに技術力と時間をかけて造作をしているのかを知るため、研修に出したらどうかという話しが出ました。

協力会社の助けがなければ、自分では何もできないことを知る必要がありました。

しかし忙しい業界だったために、実現しませんでした。

大人の発達障がいの疑いと向き不向き

私は後輩Aと割と仲良くしていました。

社内で雑談する程度では、コミュニケーションに大きな問題を感じませんでした。

彼はパソコンやゲームに詳しく、会社のパソコンの調子が悪くなると相談に乗ってもらいました。

社内で「後輩Aはこの仕事に向いていない」と囁かれるようになったころ、後輩Aと二人で飲みに行く機会がありました。

彼は「俺はこの仕事、向いてないんですかね」と話しだしました。

正直、向いているとは思えませんでした。
新しい提案をし、イレギュラーなことをし続けて、多くの人を取りまとめる仕事だったからです。

情報の整理や優先順位がつけられない人には難しい仕事でした。

しかし私の口から「向いていない」とは言えませんでした。

彼はミスを続ける自分を責めており、なぜそうなってしまうのかわからず悩んでいたからです。

「向いていない」だけで片付けていいものなのか、わかりませんでした。

大人の発達障がいの疑い・職場はどう対応している?

ある日テレビを見ていたら、「大人の発達障がい」が特集されていました。

頑張っているのに、うまく仕事や家事ができない。
優先順位が決められない。
やるべきことが中途半端になってしまう。
周囲からの評価が低くなることを自覚して、自己肯定感が低くなり悩む、混乱する。
鬱などのメンタルの不調を引き起こしやすくなる。

などの特徴が、再現VTRと共に説明されました。

後輩Aの症状にピタリと当てはまりました。
(下の立場の人に横柄になるのは、発達障がいにより自己肯定感が低くなり、プライドを守るためにそういう態度をとるケースがあるようです)

叱っても症状が改善しないことは、社内のだれもがよくわかっていました。

もう誰も彼に注意することはありませんでした。

しかし相変わらず彼のミスが続き、誰もカバーできない状態でした。

大企業であれば配置換えなどできるのですが、中小企業ではそうもいかず、彼が今の仕事をこなせないのであれば行き場所がありませんでした。

後輩Aがいない場所で、上司や先輩たちが彼の対応をどうするかを話す機会がありました。

その場で私が「彼は発達障がいではないですか? それなら正式に診断を受けることで傾向がある程度わかるし、対応もできるのではないでしょうか」と発言しました。

上司が「そうかも!」という表情を一瞬作りましたが、先輩の一人が即「それって差別用語だから」と一刀両断しました。

私は差別用語だと思っていなかったので、驚いてそれ以上言えなくなりました。

それ以来、誰も発達障がいについて口にすることはありませんでした。

大人の発達障がいの疑い・見逃される苦しみ

少しして後輩Aは退職しました。

転職先も同業界でした。
その後上手く行っているのかは、わかりません。

これらは今から12年ほど前の話です。
まだ発達障がいが広く知られておらず、特に子育て世帯以外には理解がないことが殆どでした。

現在、発達障がいという特性が広く知られるようになりました。

私と仲のいい友人の夫が、アスペルガー症候群の診断を受けました。

夫は頑張っているのに周囲に迷惑をかけるばかりで認めらず、苛立ちを募らせていました。
それを妻にぶつけて家庭内が混乱していました。

友人の夫の仕事に関わっていた私は、周囲の混乱具合を見ていました。

友人夫の症状が後輩Aにとても似ていて、彼を思い出しました。

 

社会ではどう対応しているのでしょうか。

いたずらに発達障がいを疑ってはいけないと思います。
しかし「発達障がいは差別用語ではない」と声を大にして言いたいです。

それは差別ではなく、特性を知るという行為でしかありません。

努力しているのに報われず批判され続ける生活は、どれだけストレスかと想像します。
自分の特性を知れば、対処方法を知るきっかけになります。

タブー視するのではなく、特性を理解して、無理をしない範囲でフォローできる社会になってほしいと願います。

あの時反論できなかったのが心残りです。

 

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