主婦の仕事と子育ての両立・子どもから勇気を学んだママの話

あるママ友がいる。

ママ友と言ってもそれほど親しいわけではなく、居合わせて少し話をする程度の付き合いだ。

4人の子どもを育てている彼女は看護助手の仕事をしていて、裁縫が得意で、幼稚園や小学校、中学校の役員を進んで請け負う人だ。
幼稚園の卒業時によくある、先生へのお礼の品の手作り品なども自ら進んで作ってくれる。

毎日忙しいのではないかと心配になるが、細かい作業が好きなのだと言った。

彼女は少しふくよかな体型を気にしているらしいが、お洒落で朗らかで、可愛らしい人だ。
家族仲が良く、子どもをとても大切にしていることがわかる。

私は毎日通院をしていた時期がある。

早朝7時前に病院に並び、受付をして一端帰宅し、診察開始の時間に再度病院に行く生活を、約3か月していた。
受付をして一端帰宅する道中に、そのママ友とすれ違う。

私は車を運転していて、ママ友は自転車を漕いで職場に向かっている。

幼稚園で会う朗らかな彼女とは印象が違い、険しい表情で少し下を見ながら坂道を上っていた。

彼女は私と毎日すれ違っていることに気付かなかった。

数日後、幼稚園で会った時に「毎朝すれ違っているんだよ」と知らせた。

すると彼女は「私、変な顔してた?」と聞いた。
「少し険しい顔をしてた」と正直に言った。

「職場が変わって、覚えることがたくさんあって、専門用語を頭で反芻しながら自転車漕いでるからかもしれない」と彼女は言った。

それからは彼女もすれ違う車を気にするようになり、互いに手を挙げて挨拶するようになった。
彼女は手を挙げる時は一瞬笑顔になるが、それ以外はやはり険しい表情をしていた。

毎朝すれ違うことを伝えないほうがよかったかもしれないと思った。
仕事モードへ気持ちを切り替える時間を、邪魔しているような気になった。

それでも毎朝の挨拶は続いた。

三ヶ月の通院を終えて、彼女とすれ違うことはなくなった。
結局最後まで、彼女は険しい顔で自転車を漕いでいた。

ある日、仕事終わりの彼女が幼稚園に迎えに来ていた。

他のママ友も含め、皆で立ち話をしていた時のこと。
彼女がおもむろに話し出した。

「息子のサッカー教室でね。年上の上手な子たちに囲まれて、息子だけ体が小さくて、技術もまだ追いつかなくて、コーチにも叱られて、でもがむしゃらに頑張ってるのを見たんだ。そうしたら、涙が出て来ちゃった」

彼女の息子は、幼稚園児ながらサッカーの個人指導を受けている。
有能な指導者の下で、年上に囲まれて指導を受けることもあった。

毎週末、彼女が息子のサッカー教室を見に行っていることは聞いていた。

「私、職場を移ってから、ずっと仕事が上手く行ってなかったんだ。涙が止まらなくなって、ああ、私はしんどかったんだな。結構“キテた”んだなって気づいた」

「職場を変えたのは、自分のステップアップのつもりだったの。自分で決意して、自分で職場を変えたのに、新しい職場は専門用語ばかりで理解が追い付かなかった。ふがいない自分が嫌で、ノートにまとめて一生懸命覚えようと思っても、戦場みたいな場所で足手まといにしかなれなかった。頑張らなきゃってずっと思ってたけど、ずっとしんどかった」

そう言って彼女は目に涙を溜めた。

「息子が転んで怪我をしてもがむしゃらにボールに向かっていく姿を見て、私ももっと頑張らなきゃ。へこたれてたらダメだなって思ったの。息子に勇気をもらった」

それを聞いて、皆、少しの間誰もなにも言わなかった。

彼女が頑張り屋なことは知っていたので、そんな人に頑張っていない私が何を言えるのだろうと思った。
真っ直ぐで心が綺麗な人だと感じた。

私は極悪人ではなく特別いい人でもなく、何かを極められているわけでもない半端者だ。

子どもに感情で怒ってしまうこともあるし、一人になりたい、何もしたくないと思うこともある。
義務として家事やら何やらを私なりに頑張るだけ。

何かを突き詰めたり、何かを頑張り続けているわけじゃない。
楽しみと言えば、のびのびと挑戦心豊かに育ってくれているわが子たちを見守ることと、夫との晩酌くらいしかない平凡な主婦だ。

何者にもなれない主婦は日本に沢山いるように思う。
子どもや家事や、夫の世話を理由にして、挑戦することを諦める場合が少なくない。

確かに環境によって取り組めることは変わるし、何でも頑張っていたら潰れてしまう。
職場の向き不向きもある。バランスが必要だ。

しかし子どもが親を変えることがあり、勇気の源になることもある。

私も子どもたちや、ママ友から学ばなければいけないと感じた。

 

私は何をしよう。

 

 

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