次女が通う幼稚園には、数人の発達障がい児がいました。
そのうちの一人の男児に気に入られ、次女は日常的に暴力を振るわれるようになりました。
なぜ娘が痛い思いをしなければならないのか、という憤りと共に、男児の母親が気に病んでいることも知りました。
共に生活するには何が必要なのか、深く考えるきっかけとなりました。
自閉症スペクトラムの男の子に怪我を負わされる
次女が通う幼稚園で特定の男の子に怪我をさせられることが続きました。
〇 突進され突き飛ばされる。
〇 頬を鷲掴みされ、引っかき傷を作る。
〇 口の中に手を入れられ、口内が切れる。
などといった行為が日に何度も繰り返されました。
他に被害に遭う子も居ますが、断然次女が狙いのようでした。
次女から初めて聞いた時は、
そりゃ嫌だね。嫌なことは嫌って伝えないとわからないよ。
嫌だよ、やめてってしっかり言ってみな。
と言ったのですが、その後も被害が続きました。次女はびっくりして泣いてしまうようです。
幼稚園入園前からその男の子と会うことがあり、その頃から抱きつかれ追いかけられていました。次女は嫌がって逃げ回りました。
先生は男の子を止めようとしてくれているようですが、突発的に動く子を止めるのは容易ではなく、間に合わないことが多々あると話しました。
次女の怪我が頻繁になり、「嫌って言いな。」で済む程度ではなくなっていきました。
親の責任はどこまで
男の子のママは上の子同士が同級生であり、顔見知りでした。
気遣いのある、いいママさんです。
上の子が幼稚園生だったころから、お迎え後の園庭遊び中に未就園児だった次女が男の子に突き飛ばされたり、執拗に抱き着かれることがありました。「コラコラコラコラ!!」と思うものの、グッと堪え、
それは痛いし悲しくなるからやっちゃだめよ。やめてね。
と声をかけていました。男の子のママも叱っていました。しかし全く耳に入っていない様子です。毎度響いていないようなので、何かあるのかも知れないと感じていました。
幼稚園生になり、毎日のように引っかき傷を作られるようになったある日。先生に、相手のママさんと直接話しをしていいかと聞きました。怪我を負わされることがあっても相手が誰かを明かさない方針の幼稚園でしたが、子供が喋るのでわかります。相手は全て男の子でした。
責める気はありませんでした。どうしたら男の子の行動に響くのかを知りたかったのです。
次女に我慢させるのは違うと思いますが、ただ責めても事態がよくなると思えませんでした。
その後男の子のママさんから電話をもらいました。開口一番謝られました。その後も気の毒になるほど謝っていました。
発達診断
前々から男の子には手を焼いていて、次女に度重なり怪我を負わせたのをきっかけに発達障害を疑い、病院にかかったといいます。
病院でも可能性があると言われ要観察となっていました。
やはりそうだったのかと思いました。
次女が男の子にどんな言い方や態度を取ったらいいと思うかを聞きましたが、やはりわからないようでした。それがわからないから親は辛くなるのだと薄々わかっていましたが、少しでも糸口が見つかればと思い聞きました。
ママさんと私、そして幼稚園の先生の見解は、男の子は次女をとても好きだということでした。ありがたいことに男の子の中では「可愛い=次女」だったのです。(先生が男の子から直接聞いていました)
男の子自身も長髪のウイッグを被ったり、女の子らしい可愛いシャツや靴下を好んで身につけていました。
園にある可愛いぬいぐるみも好きで、他の子が持っていても奪い取って抱えていたので、次女も同じ扱いだったのかもしれません。
診断を受けて辛いのは親
病院にかかってから3ヶ月程度で自閉症の診断を受けました。診断を受けて直ぐ、ママさんが連絡をしてきてくれました。
覚悟していても、診断を言われた時は医師に怒りを感じてしまったという話でした。
ママさんの葛藤や苦しさが伝わってきました。
子供の将来を心配するからこそ、医師の言葉を疑いたくなる気持ちは想像できました。自然な反応だから、自分を責めたら辛いだけです。でも診断を否定していたら男の子のことも否定することに繋がってしまうかも知れないと思いました。
人付き合いや特性で苦労することは容易に想像できたので、療育にかかって自覚し、周囲の理解を求めストレスを減らす必要があると考えました。
幼稚園に飾られる男の子の絵は魅力的でした。可愛いものが大好きで女装も好きなら、将来メイクアップアーティストやファッションデザイナーが向いてるかもしれない。着たい服を描かせてみるのもいいかも知れない。発達障がいを持っている私の友人たちが、個性を活かした仕事をしていていることも話しました。
ママさんは、未来があるのだと想像できていなかった。気が楽になったと言いました。
発達障がいの療育効果
男の子が療育に通いだして2ヶ月経たないくらいで、次女への危険なちょっかいが激減しました。
しかしさらに数カ月経ったころ、ママさんが妊娠して体調を崩し、療育に通えなくなりました。同時に次女へのちょっかいが激増します。
療育効果すごい!
って感心してる場合じゃありませんでした。
(後のママさんの話しでは、一時激減した理由は療育効果だけではなく、長期休みに入り次女との距離ができたことで「ちょっかいを出していたことを一時的に忘れた。」ことも影響したとのことです。)
暴力が激増
出産予定はまだまだ先でした。出産しても暫くは療育に通わせることができないでしょう。
男の子のママは妊娠してしまって申し訳ないと涙ぐみながら言いました。男の子に手がかかっているので産むのを諦めるつもりだったが、旦那さんに産んでほしいと泣いて頼まれて、悩んだが妊娠継続を選んだということでした。
喜ばしいことなのに、妊娠して申し訳ないなんて、なぜそう思わなければならないのでしょうか。障がいのある子を持っていたら、兄弟を作ってはいけないとは全く思いませんでした。ママさんの言葉に、泣けてしまいました。
しかしママに負担が偏り過ぎていることが気になっていました。旦那さんは出張が多く、また男の子の障がいについても受け入れられておらず、家でよく男の子を叱っていると聞いていました。ママさんの精神状態が心配になりました。
幼稚園では次女に対するちょっかいが激増していました。
妊娠中の情緒不安定になりやすいママさんを追い詰めたくありません。でも、
また男の子にやられたー!
今日はこれとこれをされた。粘土でキャンディー作ったのも壊された。
と半泣きで報告する次女をそのままにしておくこともできませんでした。
誰もなにも悪くない
先生の話しでは幼稚園も問題視して対処してくれていました。男の子は自閉症で悪気はありません。次女をとても好いている結果です。
刃物を振り回すことはなく(このタイプの子もいました。親が子どもを庇い園への協力を拒否したため、退園となりました。)勢い余っての行動です。
ママさんも気に病むほど悩んでいます。
発達障害や持病やハンデがある人も、専門の施設に入るレベルでない場合は多くあります。我が家の三女は難病を持っています。運動に多少の制限があり、見た目にも影響があります。特性を受け入れる世の中になって欲しいです。
しかし、次女が我慢するのはおかしいです。私は知的障がい者に酷い痴漢に遭ったことがあります。泣き寝入りするしかなく、知的障がい者への嫌悪感で一杯になりました。次女はかつて痴漢に遭った私と重なりました。これ以上我慢させたくありませんでした。
どちらかが転園するのがいいとも思えませんでした。何もしていない次女が退園するのは納得がいきません。しかし男の子が退園したとして、次の居場所を見つけるのは容易ではありません。
男の子は初めて知った幼稚園という社会から弾き出されたことが傷になりかねず、親の心労も想像を絶するものがありました。
どうしたらいいのかわかりませんでした。
発達障がい児を受け入れるということ
どちらも受け入れるためには、幼稚園に頑張ってもらうほかありませんでした。
負担が増えることを避けるために発達障がい児の入園を拒否する園があると聞きます。
行き場がない子とその親はどうするの? 私の子どもが障がい児だったら、そういう扱いを受けても仕方ないと受け入れなきゃいけないの?
グルグルと思考が巡りました。
園は発達障がい児を受け入れているのだから、対処するべきだと訴え続けていいのでしょうか。悩みましたが私は次女の親としてやるべきことをやろうと思いました。
園への要望
担任の先生に幼稚園での対処を改めて聞きました。
男の子のママとの連携が取れていないように感じました。先生にも男の子の家庭での取り組みや療育内容、診断内容を把握してほしいとお願いしました。それが次女への対処に意味がなかったとしても、知ろうとしてほしいとお願いしました。
園の実態と対処
後に、担任の先生が一人でこの問題を抱え込んでいたことがわかりました。先輩や園長の助言を受けられない環境にあり、別に障がいを持っている子の対処もあり手一杯で、次女が園を嫌うまで事態が悪化していなかったことで、後回しになっていたとわかりました。
これは担任の先生だけの問題ではありませんでした。
園長に話しをしてもらい、園の計らいで男の子にほぼ専属となる補助を一人つけてもらうことになりました。発達障がいの診断が下ると加配手当てが付き、園に補助金が入りますが、一人分の人件費には程遠いそうです。足りない分は園が負担してくれました。補助が付いたこと、また長期休みに入ったことでその後次女へのちょっかいは殆どなくなりました。
とてもありがたく感謝で一杯でしたが、誰も悪くないこの一件が、園の負担としてのしかかったことは確かです。
障がいをパパが受け入れるまで
男の子の障がいが発覚したことで、ママさんとパパさんの喧嘩が増したと聞きました。
パパは病院にかかるから病名がつくのだと怒りました。子どもはできることとできないことがあるのは当たり前で、安易に障がい呼ばわりするべきではないと主張しました。
これは私の夫の同僚の中でも同様の話しを聞くのですが、どうも男性は子どもの障がいを受け入れにくいように感じます。
子どもを長時間見ていて大変な思いをし、将来を考えて診断を受け療育にかかろうとする母親に対し、父親は「俺の遺伝子に問題があるのか。」と自分の評価として受け止めてしまうようです。
どんなに否定をされても、療育に通わせるにはパパの助けが必要な状況でした。
ママさんにパパさんとの話を聞き、☟この本を勧めました。
社会で地位を築き上げている方たちの言葉だからこそ、男性親には響きやすいように感じられました。
パパさんは初めて診察を受けた際にも渋々同席していました。
本によれば、同行する時点で、言葉では否定していても受け入れる体勢ができているとあります。(少しずつ受け入れるから、焦らせないでちょっと待ってという内容でした)パパはパパで一生懸命受け入れようとしていたのだと思います。
男の子のことで夫婦は何度も喧嘩をしました。ママが妊娠し、パパが産んでくれと泣いて頼み、そしてパパは男の子の診断を受け入れました。ママさんや男の子への愛情があってこその流れだったのだと感じました。
小学校入学
男の子が小学校に上がるときにも、特別学級に通わせるかどうかで、激しい喧嘩になったそうです。
結果的には、ママが勧めた特別学級に行きながら普通学級に参加する形でスタートすることになりました。
程度の影響はもちろんですが、やはり療育の開始時期も影響するように感じました。
因みに幼稚園には他にも発達障がいを抱える子が何人もいました。療育に通う子も少なくありませんでした。大半が症状が落ち着いており、普通学級でスタートを切った子の割合は半分程度でした。
それとは別に、幼稚園の時から発達を指摘されていたものの、親が認めず何もしないまま普通学級に入った男の子がいました。3年生になるとコミュニケーションや勉強の遅れが目立ってきました。「困ったことをされるから」とクラスメイトが嫌煙するようになってきています。辛いのは本人ではないかと感じています。
障がいは立場が変われば考え方も変わる
どんな子どもであっても、親が案じて抱える思いは一緒です。
愛がある故に、理不尽を強く感じ、逃げられません。受け止めてできる限りのことをしようとします。
そのためには自分たちの生活を守る必要があります。仕事だってしなければならないし、精神的に休む時間も必要になります。そのために施設や学校や園に頼ります。
私はかつて障がい者からひどい痴漢を受けました。
当時は加害者に消えてほしいと思いました。
今でも多少の恐怖感を感じるのは確かです。
でも親の気持ちを想像すると、ただただ、応援したいと思うのです。
だからこそ、昔の私や次女のように被害に遭う人を絶対に出してはいけません。
私にできることは何でしょうか。
教えてください。