孤立して病んでも意地とプライドを優先する男と、困惑する男達の亀裂

女である私が男ばかりの会社に勤めて知ったのは、「男社会は意外と厄介」という事実です。

私の夫もまた、私が勤めていた会社とは別の、男性しかいない会社に勤めています。
600人規模の中小企業ですが、その人間関係は非常に厄介。

人間関係のストレスに疲弊する夫を見て実感したことを、記す記事です。

意地とプライドと陰湿さの男社会

私が男性ばかりの会社に勤めていた時に、強く感じたことがあります。

女性が感情的な思考であるのに対し、男性は理論的、建設的と言われますが、それよりも前に、「男性は置かれた状況を受け入れて“我慢する”傾向が強い」という事です。

また、権力に弱い。
自分より“上”だったり“強い”相手には、非常に弱い傾向があります。

楯突いたら負けるかもしれない社内での立場が悪くなるかもしれない居場所がなくなったら困る言いたいことがあっても我慢する

こんな構図が至る所で見られます。

逆に、自分より「下」とみなした相手に、自分を誇示する男性もいます。
内容は様々ですが、「俺は仕事ができる」「お前より年上だ」「先輩だ」という言動を、相手が認めるまで繰り返すのです。

孤立して病んでも意地とプライドを優先する男と、困惑する男達の話

私の夫は、度々険しい表情で職場から帰宅します。

原因は大抵の場合、人間関係です。
相手はもれなく先輩や管理職。

理不尽な言動をされると、強いストレスを抱えます。
正当な理由で責任を問われるのはいいのです。納得できますから。しかし理不尽な場合は全く異なります。

その理不尽の原因には、相手の不機嫌や事実誤認、「誇示」が含まれているケースが多くあるのです。

事実誤認を正そうにも、説明すると「言い訳だ」とさらに非難されることが珍しくありません。
何を言っても良いことはないと思い、口を噤むようになります。

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夫はある先輩の言動にストレスを感じていました。
先輩は芝(仮名)と言います。

芝は他の社員から、長く孤立していました。
管理職以外の全社員に対し、上から見た物言いを繰り返した結果でした。

ちょっとした仕事の一端を持ち出して執拗にからかったり、ミスとも言えないような事を叱責するなどして人の評価を落とした上で、自分への評価を求めるような発言が頻繁にありました。

同僚は次第に芝と距離をとるようになり、「芝に近づくといいことがない」と口々に口にしました。

ある同僚は、直接芝に対して、発言を訂正するように求めました。
一発触発の場面でも、芝は強気な発言を続けました。その後、その同僚と芝は会話することがなくなりました。

暫く経った後、別の同僚も芝のしつこい言動に怒りを募らせて、喧嘩状態に陥りました。

そうして段々と、多くの同僚が芝を避けるようになっていきました。

芝は周囲が自分を避けていることに気づいていました。
同僚が集まっている場で、「何、俺、ハブられてんの?」と発言をしたことがありました。

ある別の同僚が「言動を改めてください」とはっきりと伝えましたが、芝は「無理。これが俺だから」と、あっさり答えました。
同僚は「それならしょうがないですね」と言うと、「あっそ」と言って、芝はその場を後にしました。

芝と世間話をする人は、ほとんどいなくなりました。

私の夫は、芝が孤立する状態に心を痛めていました。
それぞれが芝を嫌い、自発的に避けるようになっていったのですが、芝、対集団の構図は、“いじめ”に近いように感じられて問題だと感じたのです。

夫は芝が絡んできても無視をすることはなく、平常通りに会話をしました。
芝が苦手とする人物以外は芝を避けるようになっていましたので、芝が執拗に絡む対象は、夫だけになりました。

夫は時々芝に不快感を示し、意思表示をしてきましたが、芝は相変わらず夫をバカにし続けました。

社交性があるのに、誇示を抑えられない男

私は夫の会社のイベントで、芝と、芝の妻と酒を飲んだことがあります。

芝は夫から聞いた話とは全く違う印象でした。

気配りができて面白く、その場では人を落とす発言をしませんでした。
女性に不快感を与えず、会話を盛り上げることができる、“上手い人”でした。

外見はハンサムで、高給取りです。
女性にモテるだろうと思いました。

当時の芝は離婚歴があり、いわゆるバツイチでした。
私が席を共にした妻は、芝の二人目の妻です。

芝が夫に得意げに語った内容によると、一人目の妻とは、芝の不倫が原因で離婚したとのこと。
離婚後に不倫相手ともうまくいかなくなり、新たに出会ったのが二人目の妻でした。

二人目の妻は、私が知る限りとても素敵な人でした。
素直で真っ直ぐ。情熱があり、そして美人でした。イベントで楽しく酒を飲んで、私と二人目の妻は「またね」と言って別れました。
それが妻に会った最後でした。

芝はまた不倫をしていました。
それが妻にバレて、妻は幼い子どもを連れて家を出て行きました。

芝は離婚に抵抗しましたが、妻が思い直すことはなく、別居から一年程かけて離婚が成立しました。

芝は一人目の妻との間にできた子どもと、二人目の妻との間にできた子どもの養育費を払っていくことになり、会社で「元妻たちに金をとられてる」と愚痴をこぼしました。

「家が寂しい」とも、冗談めかして話しました。

一度目の離婚時と同様に、不倫相手とは離婚後まもなく別れていました。
理由はわかりません。

「俺」を守る「俺様男」達

周囲が芝を避けるようになってから、数年が経ちました。

夫は度々、「芝に何を言っても通じない」と愚痴をこぼしました。
自分ばかりが執拗にからかわれる現状に、嫌気が指していたのです。

そしてある時、夫は猛烈な怒りを抱えて帰宅しました。

芝が夫の堅実な仕事ぶりを、人前で徹底的にバカにする発言をしたのです。
夫は「もう耐えられない」と言いました。

私は上司に相談をしてみたらどうかと言いましたが、上司はとっくにこの状態を知っていて、しかし野放しになっているのだと言います。

私が男性ばかりの会社に勤めていたときにも、同じように「俺様」の社員(T氏)がいました。
Tは高すぎるプライドを守るために、周囲を“落とす”発言を繰り返して、同僚たちから面倒がられていました。

上司も役員もそんな状態を知っていたのに、本人同士の問題だからと野放し状態でした。
男性が多い職場は、このような人間関係の問題が放置されていることが多いように感じています。

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私はTより一回り近く年下で、さらに女性でしたので、唯一彼に意見できる立場にありました。
明らかに「対等でない」とみなされているため、関係が壊れるような酷い喧嘩にはならないのです。

私が「その発言はいただけない」と言うと大抵言い合いになるのですが、プライド対プライドの戦いにはならないので、喧嘩が終わるといつも通りの会話ができました。

Tと私は、飲み仲間として頻繁に出歩いていました。私は他の部署の女の子たちを誘ったり、社内で有志を募って旅行を計画するなどしていましたので、Tの右腕のように見られていました。

Tの俺様な発言が度々気になっていました。
女性に対しては酷い発言はありませんでした。しかし男性相手だと、虚勢を張った発言が出てしまうようです。
同僚男性達は、ストレスだろうと感じました。

徐々に男性社員の中で孤立していったTは、強気な言動を繰り返す裏で「精神的に不安定だ」という自覚を持っていました。
そしてメンタルクリニックに通うようになっていきます。

私が仕事を辞めた後、Tは社内でさらに孤立を深めていると、同僚から聞きました。
プライドが捨てられず、周囲を貶める発言をして、自分を持ち上げている姿が容易に想像できました。

恐らく自己肯定感が低いために、自分を高めようとして他人を低く見積もるのだと想像しました。理想の自分と現実の乖離を埋める方法がそれなのでしょう。

たまにTにLINEをして様子を伺うなどしていましたが、Tは返信が長文で時間がかかることもあり、そのうち途絶えてしまいました。

Tは九州の出身で、男性のために女性が炊事で動き回るような、男性優位の家系で育ちました。
父親は暴力をふるう人で、親戚の前でも隠そうとしなかったそうです。

Tの母親は離婚をして、幼かった先輩を育てるために東京に出て接客業に就きました。
Tが社会人になったころ母親は、都内近郊で料理屋を持つまでになっていました。

暫くして景気が悪くなったころ、母親が年を取ったこともあって、実家のある九州に帰って行きました。

Tは都内に残り、一人暮らしをしました。
家庭へのあこがれは強いものの、女性への理想が高く、中々女性と付き合うまでに至りません。

Tが40歳を目前にしたある正月。
母親の実家に帰り、親戚と過ごした時に、Tは親戚に酷い悪態をついてひんしゅくを買いました。
母親は「お父さん(別れた元夫)そっくりだ」とTの前で泣いたと言います。

Tは数年の間、実家に帰るのを控えました。

そうして友人を無くし、社内で居場所を失って、実家にも帰れなくなったTはメンタルクリニックに頼りながら暮らすようになりました。

その後の様子は知りません。

俺様男と決別する男達

同僚から遅れること数年。

夫は芝に「もう耐えられない」と言い出しました。

上司に相談をして、社内の配属変更を願い出るほどストレスに感じていました。
しかし配属の変更は、思うように進みませんでした。

芝に何を言っても通じないことがわかっていた夫は、挨拶や仕事で必要な折衝はするものの、雑談には応じないことにしました。
全くの無視ではなく、あまり反応をしないというやり方でした。

それが一週間も続いたころ、芝は夫の変化に気が付きました。

仕事を終えて帰宅する際に、芝が夫を執拗にからかい始めたので、夫は「お疲れさまでした」と言ってその場を後にしようとしました。
そこで芝は「お前もか」と言いました。

夫が何と言っていいか迷っていると、芝は「やるなら徹底的にやれよ」と言いました。

中途半端に挨拶などせず、他の同僚たちと同様に“完全に無視すればいい”という意味でした。

芝に言われたことを仲のいい同僚に話すと、「これでよかったんだよ」と言いました。
ついに夫が芝と決別したらしい、と社内で一気に噂が広まりました。

夫の中途半端な態度は、芝を傷つけたのでしょう。
「やるなら徹底的にやれよ」は強がりだったのかもしれません。

それ以来、芝は夫に構わなくなりました。
同時に、社内で芝と気軽に会話をする人間も、いなくなりました。

プライドを優先した先に残るもの

経緯を知らない人がこの状態を見れば、芝が社内虐めに遭っていると思うでしょう。

しかしこの事態を招いたのは、芝自身でした。
正面から向き合おうとした同僚たちに、耳を傾けずバカにし続けた結果です。

私は夫が芝に情けをかけて、結果的に耐えられず、拒絶するようになったのが、実は一番残酷だったのではないかと想像しました。しかし夫の立場から見たら、そのような行動になったのも仕方ありませんでした。

芝とT氏は、俺様という点でよく似ています。

どちらも家庭がうまくいかず(芝については自ら壊している)、精神的な拠り所がないために、人を貶めて自分を保とうとしているように感じられました。

彼らはこの状態が本望なのでしょうか。
芝が不倫を繰り返すのは、単に理性がないからなのでしょうか。周囲と関係が築けないストレスのはけ口なのでは? とも思えました。

彼らの根底にあるものはなんでしょうか。
「俺様」を貫く彼らに、何が残るのでしょう。

 

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