フェミニズムの現状と「女性が男性に劣る」の真実

フェミニズムとは、性差別のない平等な社会を求める女性解放思想を指します。

しかし社会でフェミニストと表現される人物は、「女性に発言権を与える男性」を指す場合が多いように感じています。
あくまで発言権はその男性にあり、他の男性の発言を聴く中、或いはその前に女性を優先させているに過ぎません。

彼らにとってのフェミニズムは、発言権がなかったはずの女性に発言の機会を与えれば「終わり」であり、舵取りはあくまで男性である自分でした。

フェミニストは女性蔑視?

私が男性ばかりの会社で働いていた頃の話です。

あるチームリーダーは、社内でフェミニストとして知られていました。
なぜそう言われるようになったのかはわかりません。私が入社した時にはそう言われていました。一見女性に優しく見えるからでしょうか。

私は彼がチームリーダーに昇格したその部署で、唯一の女性となりました。

当時の彼と私と後輩男性の一人は、日付が変わるころまで仕事をするのが恒例でした。
新規で立ち上げた企画を抱えていましたので、仕事量が多かったのです。

私は仕事にやりがいを感じていて、努力を惜しむ気は全くありませんでした。

ある日の定時後、後輩男性が、「今日は大事な約束があるからどうしても早く帰らせてほしい」と言い出しました。
一か月近くの間深夜までの仕事が続き、休日出勤もありましたので、息抜きが必要だろうと感じました。

そこで後輩の仕事は私が請け負うから、帰ってリフレッシュしておいでと背中を押しました。

それを聞いていたチームリーダーは、「何の用事があるんだ」と聞きました。
「合コンです。ずっと仲間の誘いを断っていました。今日はどうしても参加したいんです」と返すと、「合コンより仕事を優先するのが当たり前だろう」と怒り出しました。

企画専用の事務所を立ち上げていたので、他の社員の目はなく、彼と私と後輩だけの空間でした。

「もうずっと仕事漬けです。彼が息抜きをしたい気持ちがわかります。行かせてあげてください」と私が言うと、振り切るように後輩は事務所を飛び出していきました。

彼はその後も怒りが収まらず、私にぶつけました。

「お前はさ、いい恰好しようとするなよ。後輩の仕事をお前がして、ミスを全くせずにやりきることができるのか? 考えがおかしいんじゃないか?」

元々感情が昂りやすい人でしたので、「また始まったか」と聞き流しながら仕事を続けました。彼は男性ばかりの会社内では“優しい男”として知られていて、フェミニストの扱いを受けていましたが、他の人の目がない場では私を執拗に攻撃する癖がありました。

先輩男性社員や上司の前では私を気遣うのですが、そうでない場では、女性になら怒りをぶつけていいものだと思っているような節がありました。「麒麟(私)は強いから、何を言っても問題ない」という発言を彼がしたこともあり、うんざりしていました。

事務所で執拗に当たられている場面を、後輩が何度も目の当たりにしました。
堪りかねた後輩は「麒麟先輩のせいではないのに、あたるのはおかしい」と私を庇ったことがあり、その時も「女にいい恰好をするな」と後輩に当たり散らしていました。

私はストレスを感じながら、彼の気が済むように適度に返事をして仕事を進めました。彼がフェミニストなら、フェミニストとは女性を下に見ている人を言うのかと皮肉を思いました。

深夜に全ての仕事を終えると、彼は「お前は会社を休んだり遅刻したりしないよな。普通女はするだろう」と言いました。
一体どこの統計の「普通」なのだろうと思っていると、「俺の嫁は頻繁に会社を休んでる」と言います。

妻と私を比べていたようです。
女性が少ない会社でしたし、業界自体に女性が少なかったので、比べる対象が他になかったのでしょう。

彼の妻は月経などで調子を崩しやすいと聞いていましたし、その後不妊治療を始めていましたのでやむを得ない理由があるのかもしれません。
夫である彼がどれほど理解しているのかはわかりませんでしたが、一概に比べていい物とは思えませんでした。

「必要があったら休みますが、そうでなければ仕事をしますよ」

当時の私は、男性社員に隙を突っ込まれるような仕事をしてはならないと、気を張っていました。
すぐに「女は得」「女はこれだから」と言う先輩がいたため、女性が男性に並ぶためには男性より頑張らねばならないと思っていたのです。

しかしそんな働き方が体に影響を及ぼすようになりました。

男女の体力の違いと能力

ホテルで行うイベント現場が続いたときのことです。
ホテルに部屋を取っていても、部屋に戻れる時間が一日に一時間半程度しかない現場でした。

朝方20分程度でシャワーを浴び、一時間の仮眠を取って、化粧もせずに現場に出ました。
それが一週間続く予定でした。その現場は厳しいスケジュールで有名で、男性社員でも嫌がるものでした。

結局私は4日目に高熱を出し、ボーっとしたまま現場に出ることになりました。
地方にいましたし、代わりの人間を立てることができなかったのです。さらに3日続く予定でした。

食欲が全くなくなり、集中力も欠けました。

翌年の同現場でもやはり高熱を出しました。
「ああ、これが私の体の限界だ」と気が付き、翌年のその現場は外してほしいと上司に頼みました。
悔しくて仕方ありませんでした。

その発言を聞いていた男性の先輩は、「どうしたって女は男に負ける。男女平等なんて無理だ。女の給料が低いのも当たり前だろう」と雑談の中で言いました。
先輩には結婚間近の彼女が居り、彼女もこの意見に同意していると話しました。

私は体力で男性に敵わないことは確かでしたが、だから平等は無理と言い切る発言に、胸が痛くなりました。
しかし何も言えませんでした。

確かに女性は男性に体力で敵わない。
女性ができることは、男性も努力すればできるようになる。
女性が男性に勝る要素が見当たらない。

と、どこかで納得してしまいました。

女性の優遇

そんな私を知ってか知らずか、定年が近い大御所先輩の現場に入った際、深夜は人手が足りているということで、私にホテルの部屋に戻るよう指示をしました。

私の先輩も現場に残っているのに、女性だからというだけで後輩の私が部屋に帰るのには抵抗がありました。
その現場はかつて私が体調を崩した時のように厳しいスケジュールではありませんでしたので、問題なくこなせるはずでした。

「私は大丈夫です」と伝えましたが、「ここにいても人手は足りてるんだから、素直に休んだらいいんだよ。女の子は睡眠が大事だろう」と推され、ホテルに戻りました。

「女の子……」女性であることに引け目を感じ、素直に受け入れられない自分は、何を求め、どうしたいのかわかりませんでした。

翌日、現場の控室には眠そうな顔をした同僚たちの顔がありました。
例の発言をした先輩から「やっぱ女は得だよな」と言われました。所在がありませんでした。

外資系企業のフェミニズム

会社の大口クライアントであった外資系企業の男性と仲が良かった私は、飲みの席で男女平等とはどういうことなのかと聞きました。
男女関係なく役職に就き、女性管理職の元でも男性社員が抵抗なく働いている会社でした。

彼は「女性に男性と同じような体力を求めることは間違っている」と最初に断言しました。

「性差は必ずある。互いの特性を尊重しあって初めて平等になるのであって、男性と同様の行動を求めることはむしろ女性に負担を強いることになって平等ではない」

「男性と同レベル(体力面を含める)の仕事をこなせなければ、給料が低くても仕方ないという見方についてはどう思いますか?」

「逆に言えば、女性にしかできない仕事もある。それに彼らが気づいてないだけだろう。ヤバいな、日本の女性に対する圧力は。男性がドアを開けたり椅子を引いてエスコートすることを差別だと言う人もいるけど、そうではない。女性を尊重する態度の表れであって、優遇とは違うんだ」

「エスコートが尊重と言うなら、会食でお酌をしたり取り分けるのは女性が男性を尊重する表れなのでしょうか。平等だからと仕事で言われながらも、会食では女性らしさを求められることがあり納得が行きません。意見すれば女はうるさいと言われ、黙って従えば体力的に厳しくなるばかりです」

「麒麟の会社は女性がいないから、草分けのような存在になっていてキツイな。女性なんだから、女性らしい行動があるのはいいと思う。でも酌やとりわけは女性だけの仕事ではない。それは日本ならではの固定概念だ。合わせる必要はない」

私は、エスコートと酌の違いがよくわかりませんでした。彼が言うことが正しいのなら、女性は男性を尊重する表れとしてどんな行動がとれるでしょう。
また、女性にしかできない仕事が何なのかもわかりませんでした。社内で必要と思われる行動をしても煙たがられましたし、即利益になるわけではなかったので、自信が持てませんでした。

女性を感情的にさせるのは、男性社会

「フェミニズム=女性優遇と捉える意見を男女問わず聞くことがあるけど、間違っていると思う。フェミニズムとは虐げられてきた女性を尊重することなんだ。女性専用車両や映画のレディースデーを優遇と言う声にも笑ってしまうね。女性車両は痴漢被害の多さからの対策だし、レディースデーは映画好きを増やす効果や女性の情報拡散力への期待、女性が動けば男性が付いてくることを知っている企業の戦略に過ぎない」

外資企業の男性はそう言いました。

「女性は感情的になると言うけど、例えば管理職に就くと男も女も変わらず、気負って感情的になる人はいる。ならない人はならないし。日本で特に女性が昂りやすいというなら、能力が低いのではなくて単に環境のせいだ。男性社会で根付いた『女はこういうもの』っていう先入観や評価に日本女性は苦しんでいる。ストレスは男性のそれに敵わない。既婚なら家庭での仕事も男性よりずっと多い。そんな環境が追い詰めた結果なんだと思う。まあ、フェミニズムとかフェミニストなんて言葉がある限り、差別がある証拠ではあるよね」

この時の私は疲れていて、じっくりと思考を整理することができませんでした。
体調を崩し、結婚を機に退職をしました。

仕事を辞めてじっくりと考える時間が増えました。
私が無駄に肩肘に力を入れていたことに気が付きました。
女性だからと言われるのが嫌で無理をして、後輩女性社員によくない影響を与えていたことも分かりました。
あれから10年が経った今も、エスコートと酌の違いがよくわかりません。
エスコートが男性に劣る女性の体力を補うものだとしたら、女性がいないほうが負担が少ない社会だと感じてしまうからです。
果たしてそれでいいものなのか。
女性が社会に与えるものは何なのか。
そんなことは考えるだけ無駄なのでしょうか。

 

 

 

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