在日外国人二世の就職の困難・日本の中小企業の本音

在日外国人二世の知り合いがいます。

彼は日本の小学校に通い、中学、高校と進みました。
事情があり高校を中退し、建設関係の会社に就職をしました。

彼の働きぶりは評価が高く、給与が安いこと以外は順調でしたが、新型コロナの影響で勤めていた会社の仕事がなくなり、退職せざるを得なくなりました。

外国籍で学歴のない彼の転職は困難を極めます。

そして、給与を偽ったハローワークの求人に引っかかり、その後も困難な状況が続くことになりました。

外国籍の方が日本で暮らす障壁の多さ、理不尽さの実態をお知らせします。

貧困と学歴、就職難の連鎖


私の住んでいる地域では、仕事の都合で海外から転勤してきた家庭が少なくありません。
国籍も欧米や東南アジア、東アジア圏など幅広く、言葉や宗教が違うことは珍しくありませんでした。

その夫婦とは互いの子どもを介して知り合いました。

どこにでもいる、普通の仲の良い家庭です。彼と子どもの見た目は若干ハーフ(ダブル)っぽさを感じるものの、特別目立つことはなく子どもの名前が日本名だったこともあり、日本人の夫婦だと思っていました。

奥さんから、旦那さんの転職の相談を受けたことをきっかけに、家庭の事情を詳しく知ることになりました。

在日二世の生い立ち


彼女の夫は幼い頃、母親に連れられ日本にやって来ました。

母親は一人で彼を育てていました。
彼は日本の小学校、中学校に通い、卒業します。

中学を卒業後は定時制高校に進学しました。高校在学中に、交際していた日本人の彼女(現在の妻)との間に子どもができ、生活を支えるために学校をやめて仕事に専念することにしました。

それから7年が経ちますが、現在のところ、婚姻の届け出はしていません。
国際結婚をするには国に帰って書類を揃える必要があり、その費用は彼らにとって大金だったため、内縁の夫婦となりました。今は二人目の子どもも産まれ、大切に育てています。

順調に家庭を築いてきましたが、働いていた建設業の会社が新型コロナの影響を受け、仕事がなくなりました。収入が途絶え、退職せざるを得なくなります。

ハローワークに通い求人情報を探す日々が始まりました。

ハローワーク


希望していた業界に条件のいい募集が出ているのを見て、さっそく応募しました。
条件は、固定給があり、有休があり、社会保険があるという一般的なものでしたが、彼にとっては魅力的でした。


すぐに面接に呼ばれて行くと、その場で条件が全く変わることを知らされます。
詫びれる様子はなく、固定給も有休も社会保険も手当もなく、日給月給であると伝えられました。

そして面接を終えた直後から研修に入るよう言われます。研修と言っても全くの実践で、肉体労働でした。必要な消耗品は自費で購入しなければなりません。その場で断ることもできましたが、これを逃したら就職先が見つからないかもしれないという焦りがあり、心にモヤモヤを抱えたまま研修に入りました。


彼は前職に勤めているときに、将来を見据えて転職をしようと、一度退職したことがありました。転職活動が上手くいかず、出戻った直後のコロナ失業だったため、失業手当の対象外でした。退職した後、研修に入るまでに丸一か月以上かかっており、貯金が底をつくのが見えていました。二人目の子どもが産まれて間もなかったので妻は無職でした。

就職難


新型コロナの影響で、国籍を問わず、多くの失業者が出ていました。


募集条件を翻された時、「この会社はおかしいのでは?」と疑問が湧きましたが、家庭を支えるためにお金を稼ぐ必要がありました。
労働時間は毎日12時間に及びますが、どれだけ働いても日給が上乗せされることはありません。それでもとにかくお金を稼がなければ、と研修を続けることにしました。


研修の間は週払いで賃金を受け取れると聞いていました。
一週間の研修を終えて手渡しで渡された賃金は、聞いていた日給より数千円低い額で計算されていました。
額が違うと言うと、「その額だから。」と一言で終わりました。


それでも彼は働くことを優先しました。

家族が路頭に迷うのを避けるためでした。

学歴がない理由


彼の母親は彼と同じ外国籍で、日本で店を営んでいます。
父親がいないこともあり、母親は仕事に邁進しましたが、決して余裕がある生活ではありませんでした。彼が昼間の高校に進学する費用を捻出するのが難しく、定時制高校に進学しました。

定時制高校は4年制です。
一般の高校より長い時間がかかる他、事情を抱えている生徒が少なくないため、卒業率は70%と決して高くありません。
そんな中、彼は子どもができたことをきっかけに高校を中退しました。

昼間の高校であれば周囲の助けを受けながら卒業まで漕ぎつけられたかもしれませんが、定時制は卒業までにかかる時間が長いため、仕事に制約が出る期間も長くなると考え退学を選びました。


高校を卒業するまで子どもを作るべきではなかった。とか、せめて昼間働きながら、互いの親の援助を受けつつ定時制高校を卒業して就職先を探すべきだった、と思う方もいるでしょうか。

正直なところ、私は初めそう思いました。


しかし彼ら夫婦はどちらも片親で育っており、金銭的な援助を求められなかったこと、親は学歴を重視しておらず、進学に積極的ではなかったことを考えると、彼らの選択は彼らだけの問題ではありませんでした。
そして、彼らの真面目さを見ていると、環境が違えば全く違う人生を歩んでいるのだろうと想像します。


私には仲の良い中国出身の友人がいます。
彼女は富裕層の出身で、日本の専門学校に留学生として来日しました。
そこで得た技術を活かし、日本人と同じ給料形態で日本企業に就職をしました。その会社で私と彼女は出会いました。仕事をする上で、言葉や文字などのコミュニケーションの問題がなければ、国籍は全く関係ありませんでした。


日本の多くの会社が外国籍の方の雇用を嫌煙する現状があります。日本育ちでコミュニケーション能力が高くても、履歴書などの書面では判断ができません。
それをカバーするのが学歴や資格、技術力です。資格などがない場合の就職には、学歴が大きく影響します。個人を保証する材料がそれしかないからです。


貧困や環境が学歴に影響し、学歴が就職に影響し、収入に影響し、その後の世代に影響する連鎖が生まれていました。

日本企業の外国籍採用率


日本の多くの企業は、なぜ外国人の雇用を嫌煙するのでしょうか。

平成28年(2016年)の外国人を雇用している事業所数は、日本の全事業所558万に対し、17万と、全体の3%でした。

令和元年(2019年)は24万件(全事業所数634万)と増加傾向にあるものの、全体の割合は3~4%と依然少ないことがわかります。(参考厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況、総務省経済センサス


実際に外国人を雇用する場合、雇用側は以下の確認と届け出が必要になります。

必要手続き
  • ビザや在留資格(在留カード)の確認
  • 就業、離職時にハローワークを通じ厚生労働大臣に届出
  • 社会保険等の加入

など (参考外国人の雇用に必要な手続きまとめ外国人雇用の教科書


在留資格があっても就労不可の記載がされていないか、在留資格と就労内容があっているかどうか等の確認が必要になります。また、就労不可の記載がある場合は、在留資格変更許可申請をして資格を取得する必要があり、手間と時間がかかります。手続きを怠った場合は罰金制度が設けられています。



enジャパンが2019年に2000社を対象に行った「外国人採用」に関する実態調査によると、外国人の採用をしていない理由として以下が挙げられています。

雇用を避ける理由(抜粋)
  • 外国人向けの教育・研修が未整備
  • 日本語能力への懸念
  • 行政手続きの煩雑さの懸念
  • チームワーク・協調性の懸念
  • 外国人向けの人事評価制度が未整備
  • 既存社員の国民性や文化への抵抗感


現実


彼が希望していた業界は、私の夫が勤める会社が関わっているため、内情を知っていました。そのため夫婦から相談を受けることになったのです。

彼を騙した会社のことも知っています。
外国人を好んで雇い、酷使することで有名で、人の出入りが激しい会社でした。

しかしまさか、条件を偽って人を呼び寄せ、直前で翻し、本人たちが困惑したまま強制的に使っていたとは、この夫婦の話しを聞くまで知りませんでした。


怒りが湧きました。



私自身、新卒で就職したサービス業の会社と次に転職した会社で、募集要項と実情が大きく異なる体験をしています。
会社に訴えても改善されなかったため、退職後に労働基準局に電話をかけ、相談したことがありました。同様の訴えが多くの会社で発生しており、退職者や在職者が数百人規模で訴えなければ、労基が動くことはないと言われ落胆しました。(15年ほど前の話しです)


外国籍の方の場合は、コミュニケーション能力の問題もあり、さらに訴えが難しくなるだろうと想像します。野放しになったハローワークの求人で、さらに別の被害者が出る現状がありました。
彼の場合は日本育ちでコミュニケーション能力が高いのですが、訴える時間があったら就職先を探すことを優先したいと話していました。

企業の赤裸々な実情


技術職の会社を立ち上げ、展開している経営者の話しを聞くことができました。

コミュニケーション能力が高い外国籍の人材より、片言でコミュニケーション能力が高くなくても、日本国籍の方が使いやすいという赤裸々な話を聞きました。
理由は、クライアントが日本の大手企業であればあるほど、外国籍の労働者を信用しておらず、場内に入ることを禁じている場合があるからだそうです。

外国籍であっても人柄や仕事への姿勢から採用したいと考える事業所はあります。

しかし日本の根底に、外国籍への一辺倒な決めつけ、偏見が根付ていると感じました。しかしそういった規定が厳しい会社や、そこから仕事を受注している会社ほど、給与や手当の規定がしっかりしている傾向があるのです。


多くの外国籍の労働者は、規定がより緩い会社に就職せざるを得ない環境がありました。

ハローワークやその他の求人雑誌、外国籍労働者専用の職業斡旋会社で就職先を探していくことになりますが、求人内容が実際と異なる場合が少なくありません。
彼らは勤勉だからこそ、仕事が見つからないかもしれないという心配から、労働に励んでしまう連鎖がありました。

外国籍の壁


夫婦の話しを聞いて初めて、知ったことが多くありました。

知ったこと
  • 国際結婚は費用がかかること
  • 帰化の手続きは煩雑で、必要書類が膨大。数十万をかけて弁護士を雇うのが普通であること


国際結婚、帰化ともに国により手続きの内容は違い、費用も変わりますが、彼の国の場合は帰化に100~200枚程度の書類が必要になり、数十万円の経費がかかります。


インターネットで調べると、手続きの代行業者の広告が多く出てきました。

代行業者も良し悪しがあり、被害を受ける場合があると、NHKのドキュメンタリー番組で見たことがありました。口コミをもとに優良な業者を探そうとしましたが、業者が自ら発信している口コミ以外はほとんど見当たりません。

自力で手続きをした体験談が書かれたブログは見当たりません。全くの手探りになることが予想されました。


彼はコロナがきっかけで失業していますので、住居確保給付金が受給できるのでは、と考えました。

しかし夫婦が住んでいるアパートは日本人である妻の名義で契約していました。外国籍だと契約を拒否される可能性が高かったからです。その時は妻も仕事をしていたので審査を通ることができましたが、妊娠と出産をきっかけに退職し、彼の収入に頼っていました。

彼の失業は給付の対象外となりました。


様々なところに外国籍であることの障壁が立ちはだかっていました。


仕事をするために日本に来られた方達も、このようなストレスを多く抱えているのだと思います。
その方たちに無駄な障壁があってはいけない、と思うのですが、さらに思うのは、親の都合で日本に来て、日本の教育を学んで育った彼らまで、なぜこんな困難を抱え続けなければならないのか!? ということです。

これからの日本


夫婦は外国籍であることの不便や不平等を当たり前に受け入れていました。


今は別の就職先がないか探しながら、研修という名の週払いの仕事を続けています。
日曜日以外全く自由な時間が取れないので、就職活動は難航しています。


10年ほど前まで中卒を受け入れていた会社に勤める知り合いが数人いましたので、それぞれの会社の現状を聞いてみました。すると少し前から大卒以上、最低でも高卒程度と採用条件が変更されたといいます。学歴社会が度々問題となりますが、学歴重視がより進んでいるように感じられました。

貧困と学歴、収入と次世代への連鎖の予感を、ここでも抱くことになりました。



日本、これでいいの? 



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