高校の美術科、芸術大学を卒業しています。
ヌードデッサンも着衣デッサンも、多数経験しました。
ある時、インターネットに芸術系ヌードモデルの女性の記事が載っていました。
年を取ったことでモデルとしての需要がなくなり、仕事を失って苦労しているという内容です。
実情を知らない人が、憶測で書いていると感じました。
ヌードモデルの実情についてお知らせします。
ヌードモデルは性的?
ヌードモデルのイメージ
高校の美術科棟でヌードモデルのデッサンをしたときのことです。
ヌードの授業があると聞きつけた他の学科の男子生徒が、デッサン室を覗こうとしたことがありました。
ドアは施錠され、ドアの窓にはカーテンがかけられており、見ることはできません。
それでもモデルが仕事を終えて帰る際に、モデルの顔を見たがりました。
モデルを見た他学科の男子生徒たちは、「あの人が全裸になったのか」と感慨深い表情をしていました。
「女性の全裸を見て、興奮しないのか」と美術科の男子たちは質問攻めに遭いました。
ヌードモデルのイメージと現実
世間の持つヌードモデルのイメージは、「芸術」という仮面を被った「性」が近いようです。
ドラマや映画で男性芸術家が女性モデルのヌードを描くと、その後男女の関係になっているといった描写が多々あったり、有名な画家が、実際に妻や妾のヌードを描いているからでしょうか。
描き手からみると、ヌードモデルは「骨と筋肉と肉と皮の塊」でしかありません。
そこに性はなく、人間という生物の肉の塊でしかないのです。
初めからエロティシズムを描くことを目的としているなら、描き手はモデルを性の対象として見るでしょうが、モデルの了承を得ずに手を出せば当然罪になりますし、モデルの派遣は受けられなくなります。
芸術系の男性はモテる
芸術系の男性はモテます。
顔がよかったらなおのことモテるようです。
美術科の男子の中に、顔もスタイルもファッションセンスも良い人がいました。
普通科から毎日のようにファンが見学に訪れていて、アイドルと化していました。
彼は芸術系大学に進み、モデルになりました。
今はモデルの仕事を主としながら、CMやドラマ、映画にも出演しています。
そんな有望株を目の前にしながら、美術科の女子は彼に全くの無関心でした。
一見上手く仕上がっている彼の作品に、格好つけている様子が見て取れたからかもしれません。
または、芸術系の男性と付き合うのは、メンタルの面で面倒が多いとわかっているからかもしれません。
「ファッションや見た目は興味がない」と武骨に不器用に作品作りに取り組む男子の方が好感度が高かったですし、同じ芸術系ではなく、違う世界の人を好む傾向が高かったように思います。
とにかく芸術系の男性は、芸術系以外の女性からよくモテました。
神秘的なのか、絵が描けるだけで有能な男だと勘違いするのか、言い寄る女子は多かったようです。
芸術系の男性とモデルの関係
そういう状況があるので、モデルと描き手が一対一の場合は、モデルが描き手を好きになるケースがあるのかもしれません。
そうなればモデルが性の対象になることは、あり得ます。
学校などで取り組まれているヌードモデルが、描き手から性的な目で見られることはまずありません。
あくまで観察対象に過ぎず、「生き物という物体」に留まります。
ヌードモデルの実態
ポージング時間
ヌードデッサンの授業では、モデル事務所から派遣されてきたモデルに数分単位でポーズを変えてもらい、デッサンをします。
控室で下着をとり、ワンピースや布を被った状態でモデルが入室します。挨拶などはなく、ほぼ無言で登壇します。
始まりの時間に合わせて着衣をスルッと脱ぎ、適当なところに置いて開始します。
脱ぐ瞬間に、高揚感は全くありません。
10分、5分、3分、1分、30秒ごとにタイマーをかけ、ポージングを変えてもらい、デッサンをします。
タイムを縮めていくことで、瞬間的に形状を捉えて描く技術を養うこともあれば、20分程度同じポージングを続けてもらうこともあります。
ポージングの指定をすることもありますが、短い時間でポージングを変えてもらう場合は、モデルに任せます。
モデルはポージングの体勢を保つために筋力を使います。全身を見られたままポージングをするため、疲れます。
モデルの疲労を考え、20分ごとに5分から10分の休憩を挟みます。
休憩になるとモデルは着てきた服や布を羽織り、一度壇から降りて控室に戻る方が多いです。
大抵二時間半でモデルの仕事は終わります。
ヌードモデルが受け取るギャラは一時間当たり¥3000以上であることが多いようです。発注側が支払う額は一時間当たり¥4000から¥6000程度が主流です。
今はインターネットを使ってモデルが個人で仕事を募集することがあります。
そのため、安い金額で仕事を募っているケースもあります。
モデルの年齢と体型
ヌードモデルと聞くと、若くスタイルのいい女性が来るものと思われる方がいますが、実際はスタイルにこだわりはありません。
若くて痩せている女性が人気があるかといえば、違います。
モデルの登録者は若い女性が多いので、そのような方に当たりやすいのですが、面白みに欠けるため生徒には不人気です。
肉つきがないと面白くないからです。
痩せこけているなら骨が浮き出るので面白いですが、ただの痩せ型の体を描くのは飽きます。頻繁にヌードデッサンをしていると、「またこの体型か」と残念に思ってしまう事さえあります。
高校の美術科も美大も、実際のモデルより肉感を強調して描かれることが多くあります。
それは肉の流れを重視し、動物らしさを描こうとするからです。
ヌードモデルの男女差
実際ヌードモデルの登録数は男性より女性の方が圧倒的に多いです。
男性のヌードモデルは稀少で割高なので、描ける機会はあまりありません。
男性のヌードが描けることになると、生徒は喜びました。
男性の老人が来た時には、歓声が上がるほど喜びました。
老人のヌードモデルは珍しいため、非常に人気があります。
ただ筋力に限りがあるため、ポージングは座位など地味になりがちです。
ポージング中の注意
ポージング中は基本的に部屋の出入りが禁止されます。
モデルを覗き見できないよう、ドアの窓にはカーテンがかけられます。
モデルはいたずらに裸体をさらしているわけではありません。
興味本位の覗き見はモデルに失礼に当たりますし、冬はモデルが寒くならないよう室温の調節をしています。
モデルの苦労とポージングがモデルの寿命に繋がる理由
男性モデルの性的反応
男性のヌードモデルが、ポージング中に性的反応を見せたことがあります。
反応を見せた後、少しして自然に治まっていきました。
恐らくモデルは焦ったでしょう。
それに対し、描き手が何かを言うことはありませんでした。
モデルの心中を慮って「気の毒に」と思うだけです。
ポージングの崩れとモデルの需要
モデルの魅力は、性別でも、若さでも、体型でもありません。当然顔でもありません。
では何が魅力になるのかといえば、ポージングです。
前述しましたが、ポージングによっては非常に体力を消耗します。
決まった時間、動かずにじっとしていなければなりませんから。
そのためポージングを指定されないと、楽な体勢ばかり取る方が一定数います。
楽でも面白いポージングならいいのですが、座ったまま足を組み替えただけなど、変化が乏しく面白みに欠ける方がいます。
モデル業に慣れてきた方たちの中に、一定数現れるようです。
モデルが去った後、「あのモデルはよくないから、今後は別の人にしてもらおう」と避けるようになっていきます。
そういった現場が増え、モデルは事務所から声がかからなくなり仕事を失います。
冒頭に書いた「年を取って需要がなくなり、仕事がなくなった」とモデルが嘆いたのは、本当の理由ではなく、本人が気がついていないだけで、ポージングの努力をしなかった結果でしょう。
実情を知らない人、恐らくヌードモデルがどういうものかを知らない方が、モデルの話しを信じて記事を書いてしまったのだと推測されます。
画家が身近な女性の裸を描く理由
ヌードばかり描いていると、「ヌードモデルはもういい。着衣モデルを描きたい」と思うようになってきます。
しかし学校を卒業し、ヌードモデルを描く機会がなくなると描きたくなります。
子どもが産まれ、子どものクロッキーをするようになりました。
そして度々、風呂上がりの夫の裸体を見ては「描きたい」と思います。
しかし夫は「恥ずかしいから嫌」と、いとも簡単に断ります。
私と夫の間には子どもが3人もいるのに、今更恥ずかしいとはどういう事でしょうか。
身近に男性のヌードがあるのに描けないのは、もったいないことです。
そのうち口説き落として描かせてもらおうと思っていますが、画家が妻や妾を描いている理由は、つまりそこに裸体があるからでしょう。
登山家は山があれば登ります。
描き手はそこに裸体があるから描きたいのです。
美術モデルは健全な職業
美術モデルは自分の子どもにも勧められるほど、健全な仕事だと感じています。
クライアントが信用できるかどうかの一点にのみ、注意が必要です。
子どもがやることになったら、個人で営業するのではなく、事務所に所属するよう勧めるでしょう。
そうすることでトラブルのノウハウを知り、クライアントを精査しやすくなるからです。
以上、私が知るヌードモデルの実情でした。